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メッセージ from KK2

KK2weekly【メッセージfromKK2】(第809号 2023年10月27日発行)by AVCC

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サザンが歌う神宮外苑再開発への懸念

古賀伸明
元連合会長
公益社団法人国際経済労働研究所会長

 「サザンオールスターズ」桑田佳祐さんの新曲が話題を呼んでいる。東京・明治神宮外苑の再開発への思いを込めて作った「Relay~杜の詩」だ。

 今年3月に死去した音楽家の坂本龍一さんが外苑再開発の見直しを求めていたことに触れ「それを受けとめて作った曲。私なりに調べてみて、非常にもったいない気がすると思って歌詞にした」と説明。「誰かが悲嘆いてた 美しい杜が消滅えるのを」と始まり、「麗しいオアシスがアスファルト・ジャングルに変わっちゃうの」(作詞作曲:桑田佳祐 2023年「Relay~杜の詩」からの引用)などとつづっている。

 坂本さんは亡くなる直前、小池百合子東京都知事に「神宮外苑の開発は、とても持続可能なものとは言えない」などとして、反対を表明した手紙を送り計画の見直しを求めていた。

 そもそも、この再開発議論は、東京都が2010年に外苑を再整備する構想を発表。さらに球場とラグビー場を入れ替える現行計画の構想を発表し、事業者と覚書を締結。小池都知事が23年2月に事業を認可した。工事は23年3月に始まり、36年に全体が完成する予定だ。

 現在の計画では、秩父宮ラグビー場の場所に立つ新しい神宮球場の壁が、イチョウ並木西端の横8mにまでせり出すという。ホテルや商業施設を併設するため大きくなるのだ。このホテル付巨大球場の防球ネットの高さはイチョウと同じ25m。これが建てば絵画館を遠望するイチョウ並木の景観は壊れる。しかも新球場の建設では地下40mまでくいを打つ必要があり、イチョウの根は痛み枯死に至る可能性が大きい。


明治神宮外苑いちょう並木(2023年10月26日撮影)

 都市環境計画の専門家は、「歴史的樹木を個別に認識せず、百年かけて培われていた生態系を損ない、外苑造園の精神を見失った案である」と、真っ向から反対論を述べた。国際機関も動く。国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関である国際記念物遺跡会議(イコモス)は9月、危機にある文化遺産を守るための声明「ヘリテージ・アラート」を出し、事業者に計画撤回を求めた。イコモスは神宮外苑を東京で17世紀から継承されてきた「庭園都市パークシステム」の中核と位置づけている。

 そんな状況の中で、東京都の要請を受け、事業者代表は9月29日、伐採する樹木の本数削減を盛り込んだ環境影響評価書の変更届を、年末か年明けに東京都の審議会に報告する方針を公表した。9月以降に行われる予定だった樹木の伐採は、24年1月以降にずれ込む見通しになった。

 東京都が計画の詳細を公表したのは21年12月14日で、縦覧期間は2週間だけだった。そのうえ12月後半の忙しい時期であり、コメントする余裕がない状況だった。さらに近隣住民からは「住民向けの説明会は小さな告知があっただけで、広く知らされなかった」と指摘されている。こうした経緯から、十分な情報開示もなく、市民との意見交換や議論がなされないまま、拙速に進められているという声も多い。市民自身が意見を述べる機会が必要である。今や近隣住民だけの問題ではなくなっており、東京都は関係者、専門家、都民などが議論する場を早急に設けるべきだ。

古賀さん 古賀 伸明
1952年生まれ。松下電器産業(現パナソニック)労組中央執行委員長を経て、2002年電機連合中央執行委員長、05年連合事務局長。09年から15年まで第6代連合会長を務めた。その後22年まで連合総研理事長を務め、現在は国際経済労働研究所会長。

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