『ローマ法王に米を食べさせた男』(高野 誠鮮 著)
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■過疎の村を卓越したアイデアと行動力で再生させる
石川県羽咋市の市役所職員・高野誠鮮氏は2005年、過疎高齢化で「限界集落」に陥った農村を含む神子原(みこはら)地区の再生プロジェクトに取り組んだ。本書は同プロジェクトが大成功を収めるまでの経緯、顛末を高野氏自らが振り返ったものだ。
プロジェクトの年間予算はわずか60万円。しかし高野氏は、「空き農地・空き農家情報バンク制度」「棚田オーナー制度」「烏帽子親農家制度」「直売所『神子の里』」等の数々のユニークなアイデアを打ち出し、驚くべき行動力で、反対したり自ら動こうとしない地元農業従事者たちとの、粘り強い交渉や激励によって実現させていく。その結果、4年間のうちに、多くの若者を誘致し、農家の高収入化を達成する。なかでも農家たちが自主的に運営する直売所は、平均年間所得87万円だった農家に十分な収入をもたらしただけでなく、さらなる発展にも寄与する「自分で考え行動する」農家を生み出した。 -
■神子原、神の子、キリストという連想からローマ法王を思いつく
神子原地区で収穫される農産物をブランド化するために、高野氏は「ロンギング」(社会的影響力の強い人が持っていたり、飲食している、身に付けているものが欲しくなること)を使うことを思いつく。「神子原」の地名から「神の子」、イエス・キリスト、キリスト教と連想し、「ローマ法王に米を食べてもらう」という突拍子もないアイデアだった。高野氏はすぐにローマ法王庁に直接手紙を書き、数ヵ月後にはOKをもらう。同氏自らがバチカンに出向いて神子原米を献上し、それを全国紙が取り上げる。結果、役所への注文の電話が鳴りっぱなしになる。ブランディングは大成功だった。 言葉だけで説得・交渉するのではなく、実際に行動することによって説得力をつくるのが高野氏流の人の「巻き込み術」といえる。本書からは、常識にとらわれない自由な発想法とともに、そうした「人を動かす」方法論を学ぶことができる。
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◎著者プロフィール
石川県羽咋市役所農林水産課ふるさと振興係課長補佐。1955年、羽咋市生まれ。科学ジャーナリスト、テレビの企画・構成作家として「11PM」「プレステージ」など手がけた後、1984年に故郷に戻り羽咋市臨時職員となる。NASAやロシア宇宙局から本物のロケット等を買い付けて宇宙科学博物館「コスモアイル羽咋」を開館し、全国で話題に。正職員として神子原地区再生プロジェクトに成功し「スーパー公務員」と呼ばれる。