『ダントツ経営』

『ダントツ経営』

『ダントツ経営』 

著者:坂根 正弘
出版社:日本経済新聞出版社
発行:2011/04
定価:1,785円


【目次】
 序.世界市場の大転換
 1.中国市場での挑戦
 2.構造改革への取り組み
 3.ポスト・リーマンショック
 4.日本企業の強みと弱み
 5.ダントツ商品で強みを磨く
 6.代を重ねるごとに強くなる
 終.傍観者ではなく当事者になろう

  • ■一足早く大転換にさらされた建設機械業界

     世界経済はいま、日米欧のいわゆる先進国が主導権を握った時代から、中国、インドなどの新興国が成長を引っ張る時代へと大きく転換しているが、コマツが属する建設機械業界は、他の業界より一足早く、この大転換にさらされていた。建設機械の需要は1990年代には日米欧の3つの地域で世界全体の8割を占めていたが、21世紀に入って日米欧の比率は縮小に転じ、中国をはじめとする他の市場が一貫して伸び続けているのである。とくに中国は、いまやアメリカを上回る世界一の建設機械大国に急成長した。こうした市場の変貌は、コマツにも大きな影響を与え、2001年に著者が社長に就任した直後、同社は創業以来初の赤字に転落した。そこで著者は、いち早く「右肩上がりを前提としない経営」に切り替え、固定費の削減を中心とした構造改革を実行。さらにグローバル化を進め売上高の7割を新興国市場で稼ぎ出す体制に移行することに成功した。その一方で著者が断行したのが「ダントツ・プロジェクト」である。

  • ■平均点主義を脱する発想の転換「ダントツ・プロジェクト」

     著者自身が命名した「ダントツ・プロジェクト」とは、何事も競争相手と比べてそれより少し上を目指すだけの「こぢんまりとまとまってはいるが、迫力に欠ける製品」をつくるのではなく、ある重点分野で突出した強みを発揮する「ダントツ商品」を開発するという製品開発手法である。当然、従来の開発の仕組みでは、常識をくつがえすような突き抜けた商品は出てこない。ライバルに負けてもいいところ、あるいはライバルと同じぐらいでいいところは犠牲にし、その分、強みに磨きをかける。これまでの平均点主義を脱する大きな発想の転換である。
     「ダントツ商品」のもうひとつの条件は、原価の10%以上の引き下げである。そのコスト余力をダントツの実現に振り向け、ライバルを大きく引き離す商品を世に出そうというわけだ。この戦略は、開発、生産、営業すべての分野の社員を奮い立たせ、2008年6月、世界初の「ハイブリッド建機」が誕生、従来機種と比較して1.5倍ほどの価格であるにも関わらず、その最大の市場は中国となっている。

  • ◎著者プロフィール

    コマツ(株式会社小松製作所)取締役会長、日本経済団体連合会副会長。大阪市立大学工学部卒業後、コマツに入社、粟津・大阪工場でブルドーザーの設計を行う。2001年代表取締役社長に就任。直後に創業以来初の赤字に直面するが、構造改革を断行し、翌期にはV字回復を達成。中国、東南アジア、アフリカなど新興国にグローバル展開を進める。著書に『限りないダントツ経営への挑戦』(日科技連出版社)がある。