『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』(渡邉 格 著)

『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』

『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』(渡邉 格 著) 

著 者:渡邉 格
出版社:講談社
発 行:2013/09
定 価:1,680円


【目次】
 1.腐らない経済
 2.腐る経済

  • ■自然の理に反し、腐って土に還ることなく増え続けるお金と経済

     自然界のあらゆるものは、本来「腐る」ものである。その「腐る」形態には「発酵」と「腐敗」の2種類があり、いずれも「菌」の働きによって起こる。発酵は素材を、人を喜ばせるパンやワインなどの食品に変えるプロセス。腐敗は、生命力を失った素材を土に還す働きだ。ところが、自然の摂理に反して「腐らない」ものが、この世の中を支配している。「お金」や「経済」だ。お金は時間が経っても土に還ることはない。それどころか「利潤」「利子」などのかたちでどんどん増えていく。
     本書の著者、岡山県真庭市で「天然菌」を使用したパン屋「タルマーリー」を営む渡邉格さんは、「腐らない経済」に異を唱える。そして「タルマーリー」において、「利潤を出さない」ことを経営理念に掲げ、「腐る経済」を実践している。本書では、そのユニークな理論を解説しながら、そうした考え方に行き着くきっかけ、パン屋開店前後のいきさつ等を語っている。

  • ■地域内で農産物を循環させ「腐る(循環型の)経済」を実践

     渡邉さんが「田舎のパン屋」で実践していることはシンプルだ。人々に食の豊かさや喜びを提供するために、人工的に純粋培養したイーストではなく天然菌を発酵させ、手間と人手をかけて丁寧に美味しいパンをつくる。原材料や労働の正当な対価として価格をつけるが、「利潤」をめざすことはしない。そういった本来当たり前であるはずの営みによって、お金が腐らずに増え続ける資本主義経済の矛盾を乗り越えることができるということだ。
     また渡邉さんは原材料をできるだけ近隣から仕入れるようにし、パンを媒介にして「地産地消」で地域内で農産物を「循環」させることをめざしている。パンをつくって売れば売るほど地域経済が活性化し、かつ地域の自然と環境が生態系の豊かさと多様性を取り戻していく。これこそ「腐る(=循環する)経済」であり、21世紀の持続可能な社会をめざすうえで示唆に富む理論、およびその実践例といえる。

  • ◎著者プロフィール

    1971年生まれ。東京都東大和市出身。千葉大学園芸学部園芸経済学科に在学中、千葉県三芳村の有機農家で「援農」を体験。「有機農業と地域通貨」をテーマに卒論を書く。卒業後有機野菜の卸販売会社に就職。31歳のとき、突如パン職人になることを決意。2008年独立して、千葉県いすみ市で「パン屋タルマーリー」を開業。東日本大震災と福島第一原発事故を機に岡山県真庭市に移住を決意。2012年2月、同市勝山で「パン屋タルマーリー」を再オープン。