『わが街再生』  ‐コミュニティ文化の新潮流

『わが街再生』

『わが街再生』  ‐コミュニティ文化の新潮流 

著 者:鈴木 嘉一
出版社:平凡社
発 行:2013/10
定 価:840円


【目次】
 1.わが街のラジオ-コミュニティFMの役割と可能性
 2.「街中の映画館」再生-コミュニティシネマの運動
 3.ロケ隊を呼ぶ-広がるフィルムコミッション
 4.芝居小屋の復興-地域の文化資産をどう生かすか
 5.産業を観光する-ツーリズムの新たな潮流

  • ■コミュニティ文化を核に「わが街を再生させたい」と奮闘する人々をルポ

     日本のあちこちで地域社会のコミュニティが崩れかけている。この厳しい現状に対し、民間の知恵と活力で「わが街を再生させたい」と奮闘する人々がいる。例えば、地元に密着した情報の提供を通して地域の活性化を図る「コミュニティFM」は、東日本大震災でも、被災者たちの貴重な情報源となった。地方都市の繁華街では昔ながらの映画館が次々と姿を消しているが、「街中の映画館」の役割を見直し、文化の拠点として再生する動きも活発化している。また、映画やテレビなどのロケ隊を誘致する「フィルムコミッション」という非営利組織が各地で立ち上がり、ロケ隊が地元に落とす経済効果だけでなく、映像作品を通して観光客の増加を期待する動きもある。さらに、全国各地に現存する古い芝居小屋を保存・復興し、活用する気運も高まっている。
     本書では、地元の「コミュニティ文化」を核にした地域おこしの新潮流を探るため、「この地域を何とか元気にしたい」と活動する人々を取材、地方の実情や新たな動きをルポルタージュしている。

  • ■「映画以上に面白い映画館」をめざす桜坂劇場

     コミュニティ文化の活動の一例として、沖縄県那覇市の観光客が行き交う国際通りから丘を抜けた裏通りにある、「桜坂劇場」がある。国際通り周辺には、80年代まで映画館が集中していたが、郊外に新設されたシネコンに整理・統合され、桜坂劇場の前身である「桜坂琉映」も閉館を決めた。だが、このままでは街中から映画館がなくなってしまうと危惧した地元出身の映画監督らが出資し、2005年に新たな映画館として再出発。「幅広い大衆的な路線をめざしたい」と、午前中は中高年向けに石原裕次郎主演の日活映画などを、夕方は中高生向けに格安でアニメの旧作などを上映し、その他にも音楽ライブなどを定期的に開いたり、「桜坂市民大学」を運営したりしている。
     桜坂劇場がオープンしてから、場末のイメージが色濃かった桜坂一帯は変わったという。人通りが増え、若者が好みそうなカフェや店が次々にオープン。「元気なイメージを発信し続けたい。『映画以上に面白い映画館』をめざしている」と言うとおり、桜坂劇場は「何でもあり」のアイデアと行動力で地元に浸透しているのだ。

  • ◎著者プロフィール

    ジャーナリスト・放送評論家。1952年千葉県生まれ。1975年早稲田大学政治経済学部卒業、読売新聞社入社。文化部主任、解説部次長、編集委員などを経て2012年退社。1985年から放送界の取材を続け、文化庁芸術祭賞審査委員や放送文化基金賞専門委員、日本民間放送連盟賞審査員などを務める。埼玉大学教養学部、日本大学藝術学部の非常勤講師も兼ねる。著書に『桜守三代 佐野藤右衛門口伝』(平凡社新書)など。