『東北コットンプロジェクト』 ‐綿と東北とわたしたちと(宮川 真紀 著)
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■被災地の復興支援をめざす「東北コットンプロジェクト」
日本で生産消費されている綿は、そのほとんどを輸入に頼っている。その綿を宮城県で栽培する「東北コットンプロジェクト」が立ち上がったのは東日本大震災直後のこと。「綿は塩害に強い」という情報のもと、東北地方の津波被害を受けて稲作ができなくなった農地に綿を植え、それを綿製品にして販売し、被災地の復興支援、雇用創出をめざすという試みだ。本書は同プロジェクトの取材記録である。
「綿花で東北を救おう」と東京のアパレル業者と関西の繊維業界が始めたこの活動はすでに4年目。栽培地も3ヵ所に増え、「東北のコットン」が少しずつ知られるようになってきた。仙台市若林区荒浜では、かつての町並みが消えた1.2ヘクタールの場所で手探りでの試験栽培を始めた。台風による畑の冠水などトラブルは続いたが、3年目には荒涼としていた一帯に地元の人々や各地からのボランティアなど、訪れる人が多くなった。綿があることで、人の集まる場になっているのだ。 -
■広がる綿づくりの輪
2013年、収穫した綿花は合計で370キログラムほどになった。これを紡績し、商品にして販売することで、ひとつのサイクルが完成する。農・商・工が連携する、いわば6次化をめざしているのがこのプロジェクトだ。
復興支援から始まったプロジェクトは、すでに支援の枠を超え、新しい段階へと動き出している。2014年には参加チームが80社を超え、東北楽天ゴールデンイーグルスなどの企業・団体が協賛や後方支援としてチームに加入、現地での農作業やイベントの手伝いに多くのスタッフが参加している。綿栽培には、チーム外からも多くの人が参加して種まきや草取り、収穫などの作業を手伝っている。復興支援といった大きな使命感ではなくても、「綿花を見たい」という個人的な動機やつながりが新しい交流を生んでいる。東北にまいた綿の種は、プロジェクトで完結するのではなく、くらしを変える、ひとつのきっかけになっているのである。 -
◎著者プロフィール
文・宮川真紀:編集者、出版者。出版社勤務、フリーランス編集者を経て2012年タバブックス設立。著書に『女と金』、編著に『リビドー・ガールズ』『お金に困らない人生設計』(共に神谷巻尾名義)など。「東北コットンプロジェクト」へは2011年9月より参加、継続して取材を行う。
写真・中野幸英:2005年より作品製作とフリーランスでの人物・商品・環境のコマーシャル撮影を行う。2007年「プレオーガニックコットンプログラム」にてインド現地栽培や紡績工程を撮影。「東北コットンプロジェクト」では2011年の仙台荒浜の種まきよりチームへ参加し、生産者を含む参加各社へ写真を提供。