『スマート・テロワール』‐農村消滅論からの大転換(松尾 雅彦 著)
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■農村部を中心に自給圏をつくる「スマート・テロワール」構想
若者は都市に出てゆき、残った住民は高齢化して地域社会の経営コストは高騰し、各町村のリーダーたちは目先の問題解決に四苦八苦している。この状況をいかに打開すればよいのか? 本書では、これまで見落とされてきた経営資源の活用戦略と、実現可能な町村経営の将来ビジョンを示す「スマート・テロワール」が語られる。
著者は日本の市町村を独自の基準によって、「大都市部」「農村部」「中間部」、と三つの層に分けている。
「スマート・テロワール」とは、その農村部と中間部を、自然環境や歴史的なつながり、経済圏などで一体感のある地域にまとめていき、100?150ほどの自給圏をつくろうという構想だ。各地域ユニットでは、食料、住宅(木材)、電力も地産地消が原則で、ユニット内の物質循環、産業循環、経済循環が可能な新たな経済圏を作り上げていく。地域住民・消費者は、供給者である農家・食品加工業者とともに、地域の将来像を描く仲間なのだ。 -
■「瑞穂の国」幻想を捨てて過剰な水田を畑地に転換する
日本は、東京には経済の柱があるのに、農村にはそれがないことが、さまざまな問題の原因になっている。これを解決するには、「日本は瑞穂の国である」という発想を変え、過剰な水田を畑地に転換することが必要だ。そして、食生活の西洋化に対応して幅広い多様な食材を農村で作っていけばよい。海や川では水産、平地では水田、傾斜地では畑作、高地では畜産というふうに4つの生産形態を、地形に合った形で展開していく可能性を追求することが、スマート・テロワール実現の基礎となる。
また、収穫した作物の加工場を各地域につくることで、市場経済によって分断された消費者をまとめ、農村コミュニティを紡ぎ直せる。地域住民が食の安全と健康を確認できる地元産に期待し、農家と加工業者がその期待に応えられる仕組みをつくればよい。そうすれば、為替レートにも商品相場にも影響されない自給圈ができ、地域内で理想的な循環型社会が形成されることになる。 -
◎著者プロフィール
スマート・テロワール協会会長。新品種産業化研究会(JATAFF内)会長。NPO法人「日本で最も美しい村」連合副会長。1941年、広島市生まれ。1965年、慶應義塾大学法学部卒業。1967年、カルビー株式会入社。1992年、同社社長就任。2006年、同社相談役。