『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(伊藤 亜紗 著)

『目の見えない人は世界をどう見ているのか』

『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(伊藤 亜紗 著) 

著 者:伊藤 亜紗
出版社:光文社(光文社新書)
発 行:2015/04
定 価:760円(税別)


【目 次】
序.見えない世界を見る方法
1.空間
2.感覚
3.運動
4.言葉
5.ユーモア

  • ■インタビューを通して視覚障害者がモノや空間をどう認識しているかを探る

     人間が受け取る情報の8割から9割は「視覚」からのものだという。ならば、その視覚を奪われた「目の見えない人」たちは、目の見える人とは異なる方法で世界を認識しているはずである。本書では、複数の視覚障害者へのインタビューなどから、目の見えない人のものの“見方”を探っている。
     目の見える私たちが、一定の視点からあるものを見る場合、その裏側にあるものを同時に見ることはできない。私たちは、たいていその「裏側にあるもの」を“無視”して、平面的にモノを認識する。
     一方、目の見えない人には「視点」がない。従って、表にあるものも、裏側の様子も等価に認識できる。たとえば模型を触ることで立体的、俯瞰的にモノを“見る”。彼らは、目の見える人が見逃している「世界の別の顔」を容易に知ることができる。
     見えないことは「欠落」ではない。見えないことによって、知覚と認識に「別の扉」が開かれているのだ。

  • ■限られた情報をつなぎ合わせることで物事を俯瞰的・立体的にとらえる

     著者は、普通の市街地である東京・大岡山を一緒に歩いていた視覚障害者から、「大岡山って、やっぱり山なんですね」と言われた。15メートルほどの坂道を下っていたときのことだ。毎日通っていながらそこを単なる坂道としか認識していなかった著者は、目の見えない人の卓越した空間認識に驚く。
     目の見えない人には、道沿いの店や通行人などの雑多な情報は入ってこない。認識するのは、ほぼ足元の傾斜と、会話の声だけ。目の見えない人は、それらの少ない情報をつなぎ合わせることで「配置」や「関係」を敏感に察知する。
     著者が「ソーシャルビュー」と呼ぶワークショップでは、美術館で、見える人と見えない人が作品について語り合うことで“鑑賞”をする。目の見える人は、見えない人に解説するのではなく、自分が感じたこと、思い出したことなどを含む言葉を発する。それを聞いた視覚障害者が、それらをつなぎ合わせ、自分の頭の中に作品を作り上げていくのだ。

  • ◎著者プロフィール

    東京工業大学リベラルアーツセンター准教授。専門は美学、現代アート。1979年東京都生まれ。もともと生物学者を目指していたが、大学3年次より文系に転向。2010年に東京大学大学院人文社会系研究科基礎文化研究専攻美学芸術学専門分野博士課程を単位取得のうえ退学。同年、博士号を取得(文学)。日本学術振興会特別研究員などを経て2013年より現職。研究のかたわら、アート作品の制作にもたずさわる。