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メッセージ from KK2

KK2weekly【メッセージfromKK2】(第783号 2023年4月28日発行)by AVCC

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私たちはWBCから何を学んだか

古賀伸明
元連合会長
公益社団法人国際経済労働研究所会長

 3対2の1点差という重圧感の中で、9回にクローザーとして登板した二刀流の大谷翔平選手。最後はエンゼルスの同僚である強打者マイク・トラウト選手を空振り三振に打ち取り、第5回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)は、3大会ぶり3度目の日本の優勝で幕を閉じた。決勝の日米戦の世帯視聴率(関東)は42.3%と、熱気につつまれたのは先月下旬だ。

 準決勝で逆転サヨナラ勝ちの二塁打を放った、それまで不調だった昨シーズン最年少3冠王の村上宗隆選手。日本代表の宮崎合宿に最初から参加し、チームのまとめ役となり「陰のMVP」といわれるダルビッシュ有選手。勝負所で劇的な一打を放ち続けた、今年からメジャー入りした吉田正尚選手。日本人の母親を持ち、外国生まれで初の日本代表となったラーズ・ヌートバー選手。死球を当てた選手にお菓子を贈って謝罪した、チェコ戦で先発した佐々木朗希投手など、話題は尽きない。

 ヌートバー選手はメジャーリーグのカージナルスの外野手だが、日本ではほとんど知られていなかった。しかし、日本代表にすぐに溶け込むと、走攻守に積極的なプレーを見せてファンの心をつかんだ。彼の「ペッパーミル(コショウひき)・パフォーマンス」が代表チーム内で流行し、東京都台東区のかっぱ橋道具店には、応援グッズにとペッパーミルを買いに来る人が相次ぎ社会現象ともなった。米国ではペッパーグラインダーと呼ばれ、グラインド(grind)には、身を粉にして働くという意味があり、粘り強く進塁しチームに貢献する姿勢を表しているという。

 それにしてもMVP(最優秀選手)となった大谷選手は、二刀流の醍醐味を遺憾なく私たちに味わわせてくれた。メジャーリーグでも投・打・走の縦横無尽のプレーでファンを魅了している。技術や戦術の発展に伴い、ポジションや役割に応じて専門の選手を育成起用する分業化が進み、選手の役割が固定化した現代の野球の常識を打ち破ったのが大谷選手だ。約10年前、メジャーリーグへの挑戦を表明していた大谷選手は、プロ野球のドラフト会議で日本ハムから1位指名されたが、契約を拒んだ。その説得にあたったのが、今回の日本代表を率いた栗山英樹監督で、日本ハムの監督であった頃を振り返り、「前例がないとか、常識とかいう言葉は排除していかないと新しいものは生まれない。それを翔平が教えてくれた」と語る。

 WBCは新たな仲間を受け入れ力を合わせて戦い、失敗はみんなで補い合うという、まさにチームスポーツの醍醐味だけでなく、可能性を限定せず、既成概念に縛られず、挑戦することの大切さを改めて気づかせてくれた。

 大谷選手が語った「米国の方が二刀流を受け入れてくれる器が広いと感じた」という言葉も、私たちは真摯に受けとめる必要がある。異質なものを受け入れる多様性や寛容、なによりもチャレンジすることへの称賛を決して忘れてはならない。

古賀さん 古賀 伸明
1952年生まれ。松下電器産業(現パナソニック)労組中央執行委員長を経て、2002年電機連合中央執行委員長、05年連合事務局長。09年から15年まで第6代連合会長を務めた。その後22年まで連合総研理事長を務め、現在は国際経済労働研究所会長。

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