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メッセージ from KK2

KK2weekly【メッセージfromKK2】(第791号 2023年6月23日発行)by AVCC

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人間と自然の関係を問い直したパンデミック

古賀伸明
元連合会長
公益社団法人国際経済労働研究所会長

 2019年12月に中国で感染が確認されて以降、瞬く間に世界に拡大した新型コロナウイルス。感染者が急増した各国で医療体制が逼迫し、亡くなる人が相次いだ。世界経済はグローバル化の進展に加速度的に依存する一方で、リスク管理を放置してきた結果である。

 日本では、その新型コロナウイルスの法律上の位置づけが見直され、5月8日から季節性インフルエンザなどと同じく「5類感染症」に変更された。この間、多くの課題があらわになった。新型コロナウイルス感染拡大は、産業化、都市化、環境破壊、気候変動、格差による貧困など、現代の社会・経済システムが生み出すさまざまな課題をあぶりだした。約30年前の冷戦構造終焉から世界中に共有された価値ともいえるグローバル化が、物理的に機能不全に陥った。その根底にあるのは、経済・効率最優先の結果かもしれない。日本の社会・経済システムの脆弱性も浮き彫りになった。国家権力と国民の権利・自由のバランス、国と地方の役割・機能、貧弱な医療資源、デジタル化の遅れ、サプライチェーンなどが挙げられる。私たちの日常も短期間のうちにすっかり変化してしまった。課題の糸口を探り、新たなものを生み出す他の人との接触という行動が制限されたのだ。働き方もテレワークが当たり前の職種も増えてきた。しかし、どんなにICTやAIが進展しても、人とリアルに会うことで刺激を受け、学びがあり、ひらめきやアイデアも生まれる。リアルとオンラインとのバランスをどうとるのかも大きな課題である。

 現代は人類史の中でもウイルスにさらされる危機が多い時期と言われている。文明が発達して人口過密による生活様式へと急速に変わることで、人と自然とのバランスが大きく変化しているからだ。また、私たちの営みによる地球の温暖化も生物の生息地域を変化させている。これまで接する機会がなかった野生動物がウイルスをもたらし、新しい感染症が発生する危険性が高まっていると指摘されている。急速に発達した交通網で世界の距離が縮まったことが、パンデミックを発生しやすくする大きな要因となっている。

 政府も国民も多くのことを学んだ。私たちはこの教訓を生かし、長期的に感染症に強く、誰もが安心できる社会づくりに取り組むことが重要だ。それは単に、コロナ前の生活を取り戻せばいいということではない。治療法やワクチンなどに加えて、根源的な課題として公共政策や社会の構造、私たち自身の意識や暮らし方を変えることも重要だ。米国大統領の首席医療顧問として新型コロナ対策を主導したアンソニー・ファウチ博士は4月下旬、日本医学会総会に寄せたビデオメッセージで、新たな感染症の危険性を高めないために「熱帯林の伐採をやめて、野生動物の市場や取引を停止または監視、規制するしかない」と訴えた。科学や文明をどう発展させていくのかとともに、自然とどう向き合っていくのかが試されている。

古賀さん 古賀 伸明
1952年生まれ。松下電器産業(現パナソニック)労組中央執行委員長を経て、2002年電機連合中央執行委員長、05年連合事務局長。09年から15年まで第6代連合会長を務めた。その後22年まで連合総研理事長を務め、現在は国際経済労働研究所会長。

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