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メッセージ from KK2

KK2weekly【メッセージfromKK2】(第799号 2023年8月18日発行)by AVCC

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“Two Way or Go Away”双方向にあらざれば去れ

永岡慶三
早稲田大学名誉教授
一般財団法人AVCC 理事

【講義で知識を得る真面目な日本の国民性】
 日本人の勤勉で真面目な国民性は、黒船来航の1853年まで200年以上にわたる鎖国によって培われたものでしょうか。19世紀までは藩校や寺子屋で学びました。20世紀には大規模建築や交通社会基盤整備により数万人規模の学生数を持つマスプロ大学が可能となりました。こうして大量の優秀な人材が育ちました。この間、量的拡大はあっても教育の図式はあくまで教師の講義形式による知識の伝達を主としたものでした。これは工業化社会推進にはよくマッチした教育手段で、真面目に学ぶ日本人は世界に冠たる先進工業国の地位を得るに至りました。

【インターネットへ。そしてChatGPTが教育界を強襲】
 時代は巡り20世紀の終り頃からのインターネットの爆発的普及とともに、21世紀の社会基盤にICT環境が主役として躍り出ます。対面で教師に接しなくとも、多くの知識がインターネット経由で容易に得られる時代を迎えることとなりました。そして、つい最近、ChatGPTに代表される生成系AIが教育界を強襲しました。専門教師の知識切り売りの価値は限りなく小さくなりつつあります。知識を覚える必要はないと早とちりする若者を相手に、教育とは何を教えることなのか?人類は根本的な教育・学習の営みについて再考する必要に迫られています。

 一方、良し悪しは別として、文部科学省による大学設置基準には、単位の認定は「45時間の学修を必要とする」とあり、未だ教室で真面目に講義を受けるイメージが令和4年の改正でも基本変わっていません。
*「大学設置基準」第六章 教育課程 第二十一条 出典:e-Govポータル

【どうする教育?!】
 こんな時、普段あまり出る幕のない学習理論の基本に遡ってみるのも一興です。勉強とか学習といった場合、皆様はどういうイメージを持たれますか?これまでの学習理論を簡単に眺めれば、学習には「1.記憶」、「2.理解」、「3.熟達」の3段階の種類があります。

 「1.記憶」は最も基本的学習行為で知識を獲得することです。そもそも人が思考し、発想するには大脳中に最低限の基礎知識が揃ってなければ到底できません。将来も会議や雑談の場で人どうしが話し合う場合、相手の言ったことをいちいちスマホで調べたりでは、話になりません。

 「2.理解」はそれら必須基本知識を体系化・概念化し、効率的に大脳に保管する方法です。

 「3.熟達」は知識を使いこなせるようになることです。知識は実際に活用されて初めて有用の財となることは云うまでもありません。知識の有無のみを誉めてくれる“テスト”などクイズ番組でならいざ知らず、実社会では誰もしてくれません。知識がネットワーク上に存在する今後の社会では、教育の行為は知識活用に「3.熟達」する学習を指導・促進することこそ最重要です。真面目が売りの日本人も上意下達の知識伝授を忠実に学ぶだけでは行かない時代なのです。グローバル化の一層進展する社会の中、文化も意見も違う相手を論破するだけでなく、説得し賛同を得るに至る知識活用に「3.熟達」する人間関係力の養成が求められているのです。では、具体的にはどうすれば良いのでしょう?

【“Two Way or Go Away” 双方向にあらざれば去れ】
 表題に行きつきました。「“Two Way or Go Away” 双方向にあらざれば去れ」です。授業の徹底的双方向化こそ、知識を実用の武器に昇華する手段です。これはeラーニングでも教室での対面授業でも同様です。私など、意味のある興味深いクイズで時間いっぱい満たせれば充実した授業になるなあと考えているくらいです。教員Teacherはすべからく促進者Facilitatorたるべし。一方的な講義しかできない教員はAI失業以前に教場を去ってもらいましょう。

 実は「1.記憶」においても双方向で、問われて自分の頭で考えた後、正しい知識を得る行程は脳髄に知識をたたみ込むのに有効です。「2.理解」も双方向の質疑をし、他人の意見を聞くことで、本質の理解が促進され、自分なりに知識を体系化・概念化できるのです。「3.熟達」は言うまでもなく、知識を受け取り、自分も発信する、これを繰り返して人は熟達するのです。スポーツにおいて、体力・素質ある地方の高校生が、練習を積み重ねて初めて大谷翔平になるのと全く同様です。

 AVCCはそのための強力ツールDPP(デジタルプレゼンテーションプラットフォーム)を開発・提供しています。

永岡さん 永岡慶三
1977年慶応義塾大学大学院博士課程修了。工学博士。神戸大学助教授、メディア教育開発センター教授、スタンフォード大学客員研究員を経て、2003年早稲田大学人間科学学術院教授。一般財団法人AVCC理事。

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