人は「フレキシビリティー」で救われる -レジリエンス研究の現在地-
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伊庭野基明
一般財団法人AVCC理事
KK2グローバルキャリアカウンセラー
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5月発行の第837号では、「レジリエンスを築く10の方法」と題して、自己のレジリエンスを高めるための方法として、アメリカ心理学会の説について触れましたが、今号では、当研究の第一人者、心理学者ジョージ・A・ボナーノ*1のレジリエンスの最新研究について紹介します。ちなみに、今までの彼のレジリエンス研究については、「グローバル社会と日本人に求められる力」(2017年)の第2章で紹介していますので、参考にしてください。
さて、ボナーノは、本年4月に新著「トラウマとレジリエンス」(白揚社)で、2001年アメリカ同時多発テロなど大きな困難に面した折に、自己のレジリエンスを発揮した人々が、実際にどのような「信念」を持って、どのような「行動」をしたのかを研究し、それぞれ「フレキシビリティ―・マインドセット(信念*2)」、「フレキシビリティ―・シークエンス(行動*2)」と名付け発表しました。
これらは、アメリカ同時多発テロに加え、その他重大事故の被害者への調査を元にしており、誰が考えてもトラウマ状態となると考えられた人々の約3分の2が、自己でレジリエンスを発揮して回復へと向かったとし、「大半の人には、元来レジリエンスへ向かう信念や行動力が備わっている」、「逆に言えば、そのような特性を持った集団が生き残ってきた」と分析しています。

著書を元に筆者が作成
“「フレキシビリティ―・マインドセット」とは、本質的に「自分はいま直面している危機に対応できるし、前に進むためにはやるべきことは何でもやる」という確信であり、このマインドセットの核には、将来に対する「(1)楽観性」、自分はこれに対処できるという「(2)自信」、脅威を「(3)チャレンジ」と捉える前向きさの、三つの信念がある。”としています。
“「フレキシビリティ―・シークエンス」は、新しい考え方ではなく「前へ向かってするべきことをするという秩序だった」プロセスであり、何をすべきかを知る「(1)文脈感受性」、自分に何ができるか、どんなツールが使えるかを繰り返し考える「(2)レパートリー(選択肢*3)」、そしてそれらの対応を調整したり変更したりする「(3)フィードバック・モニタリング」の3段階がある。”と書いています。
本著では、そのような「信念」を持ち、「行動」できる全体の3分の2以外の人々(レジリエンスを発揮できないと思っている3分の1)も、この構造を理解し、学習する事でレジリエンス発揮に至る事ができる事も論じています*4。
2004年にボナーノが精神医学でのレジリエンス研究を発表してから20年が経ちますが、レジリエンス研究は現在も進化しており、今後も目が離せません。
KK2でも引き続き皆様と共に考え、共に学んでいければと思います。
*1:諸説あるようです。本新著での「ボナーノ」の表記を採用しました
*2:筆者和訳
*3:筆者解釈追加(自分が直面する状況で持つ可能な行動選択肢)
*4:ご参考/625号「日本社会の行動変容」、781号「人は変われる」
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