メッセージ from KK2

KK2weekly【メッセージfromKK2】(第852号 2024年8月23日発行)byAVCC

無料で学べるKK2Webサイトの動画掲載本数 2,013

複合的で単純でない株価の乱高下

古賀 伸明
元連合会長
公益社団法人国際経済労働研究所会長
一般財団法人AVCC理事

 日経平均株価は今年2月にバブル期の史上最高値を上回ったあと、7月11日に4万2,000円台を超えて最高値を更新した。しかし、その後わずか1カ月弱の8月5日、前週末日の4,451円安となった。これは世界的に株価が暴落した1987年のブラックマンデーの翌日につけた3,836円を超えて、史上最大の下げ幅の記録だ。翌日6日には一転し、3,217円高と終値の上げ幅が過去最大となるなど、記録的な激しい値動きが続いた。まさに乱高下だ。


図:2024年1月4日~8月20日の日経平均株価終値をベースにKK2事務局が作成

 その背景には、7月末に発表された米国の経済指標が市場の予想を下回り、さらに8月2日に公表された雇用統計の結果も市場の予想より悪化したことがある。景気減速への懸念が一段と強まりニューヨーク市場で株価が急落、これを受けて東京市場でも大幅に値下がりした。加えて、急激な円高が重なった。5日の円相場は一時、1ドル141円台、37年ぶりの安値から1カ月で20円程度上昇した。日本の財務省は7月中旬、一方的な円安が家計や内需型企業の負担になるとして、円買い介入に動いた。さらに日銀は7月末、円安による物価上振れリスクも意識して追加の利上げに踏み切り、植田総裁が会見でさらなる利上げの可能性に言及した。同時期に米国の連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、早ければ9月の会合で利下げが決定される可能性があると発言。日米の中央銀行トップの発言で金利差が縮小するとの見方から円高・ドル安が一気に進んだ。日本の主要輸出企業の想定為替レートは、現在平均で145円前後。この輸出企業などの業績に悪影響が及ぶ懸念が一気に強まり、これが一段の株安を招いた。また、緊迫する中東情勢からリスクを避ける姿勢が強まり、株価下落の要因とも分析されている。

 一方、市場参加者の小さな不安が積み重なって恐怖心を呼び覚まし、投機筋も加わって急速な売り買いに繋がったと見るのが妥当という見方もある。それは株価が金融政策や経済指標、為替の影響を受けるのは当然だが、歴史的規模の乱高下を引き起こす程の変化ではないとみるからだ。

 また、大きな値動きが繰り返される要因として、AIを搭載したプログラムが自動で売買のタイミングを判断するアルゴリズム取引や高速取引などを駆使して、投機筋が大量に取引していると指摘する市場関係者もいる。 旧知のエコノミストは世界の金融資本市場の不安定さは、米国景気の減速懸念や円高進行だけでは到底説明は不可能で、こうした経済ファンダメンタルズから乖離した要因による面が大きいのではないかと指摘している。市場心理の突然の変化といったバブル的な要素によるものと捉えるのが自然だという。

 このように、専門家の見方もさまざまであり、原因は複合的でそう単純ではない。株安が消費者心理や家計の消費に与える影響を注視する必要がある。相場の変調が実体経済に悪影響を及ぼす事態は避けなければならない。政府・日銀は金融市場に冷静な対応を呼びかけ、経済や物価動向にとどまらず市場とも的確な意思疎通が求められている。

古賀さん 古賀 伸明
1952年生まれ。松下電器産業(現パナソニック)労組中央執行委員長を経て、2002年電機連合中央執行委員長、05年連合事務局長。09年から15年まで第6代連合会長を務めた。その後22年まで連合総研理事長を務め、現在は国際経済労働研究所会長。一般財団法人AVCC理事。


[KK2で公開している関連プログラム] 株式投資を始める前の疑問

公式YouTubeでAI読み上げ動画も掲載中!

yose yose yose yose

■発行元:一般財団法人AVCC霞が関ナレッジスクエア事務局
〒100-0013 東京都千代田区霞が関3-2-1 霞が関コモンゲート 西館ショップ&レストラン 3F
電話:03-3288-1921 FAX:03-5157-9225

霞が関ナレッジスクエア(KK2)は学校教育や企業研修では教えていない「しごと力」をいつでも、どこでも、誰でも学べる場を提供することを目的に、一般財団法人AVCCの公益目的事業として運営しております。