パーソン・オブ・ザ・イヤー
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古賀 伸明
元連合会長
公益社団法人国際経済労働研究所会長
一般財団法人AVCC理事
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米国の雑誌「タイム」は、1923年に創刊された。世界200カ国、2200万人の読者がいるといわれ、発行部数は400万部を超える世界最大の英文週刊ニュース雑誌である。政治、経済、社会、文化、エンターテイメント、科学等、さまざまな分野をグローバルな視点から切り込む世界のオピニオンリーダーのひとつだ。
「タイム」誌の編集者がその年のニュースメーカーを考察して、表紙に載せる「マン・オブ・ザ・イヤー」を始めたのは1927年。最初に表紙を飾ったのは、初の大西洋無着陸単独横断飛行を達成したチャールズ・リンドバーグ。女性が選ばれた時は「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」としていたが、1999年には「パーソン・オブ・ザ・イヤー」に改名された。「良くも悪くもその年の出来事に最も影響を与えた」人物(またはグループ、物など)を特集し、そのプロフィールを掲載する。その号の表紙には、「パーソン・オブ・ザ・イヤー」の肖像が掲げられる。1999年には20世紀における最も影響力のある人物100人が掲載され、その中から「パーソン・オブ・ザ・センチュリー(今世紀の人物)」として、アルベルト・アインシュタインが選ばれた。次点はフランクリン・D・ルーズベルトとマハトマ・ガンジーだった。
今年の「パーソン・オブ・ザ・イヤー」には、ドナルド・トランプが選ばれた。2016年に続いて2度目だ。「タイム」誌は、「大統領への歴史的なカムバック、トランプ流一世一代の政治的再編の推進。前世紀に定義した制度への不振の拡大、そしてリベラルな価値観が大多数の人々の生活の向上につながるという信念の揺らぎを目撃している。トランプはそのすべての代理人であり、受益者でもある」と説明している。これは世界の民主主義のあり方と重なる課題だ。

タイム誌「パーソン・オブ・ザ・イヤー」より抜粋
今年は多くの国で重要な選挙が行われた。ウクライナ戦争や中東危機、またポピュリズムの火種は各国に燻り、民主主義を脅かすなど、世界情勢は混沌の度合いをますます深めるなかでの、いわゆる「選挙イヤー」だった。世界約50ヵ国で大統領選や国政選挙が行われた。なんとこれらの国の人口を足すと42億人になるそうだ。直近の情勢でも、お隣の韓国の戒厳令騒動、ドイツの連立政権崩壊、フランスで内閣不信任案が可決されるなど、先進国では軒並み政治的動乱・不安定化が増している。来年はトランプ政権第2期目がスタートし、世界の動きも目が離せない。
日本でも10月の第50回衆議院議員総選挙において、約30年ぶりに国会でどの政党も過半数を有しない本格的な「ハングパーラメント(宙づり議会)」となった。今の選挙制度のもとでは、少数与党の与野党伯仲は、これからも起こり得る緊張感のある政治体制のひとつだ。この機会に透明性をもった幅広い合意形成と説明責任を明確にする政治にしなければならない。国民の多様な意見に耳を傾け、議論を尽くした上で物事を決めるというのが民主主義における国会の当たり前の姿だ。
今年も残り少なくなりました。良いお年をお迎えください。
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