デジタル・バリアフリーの実現
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久保田了司
一般財団法人AVCC 理事長
霞が関ナレッジスクエア(KK2)代表
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はじめに、この度の岩手県大船渡市での山火事により、被害を受けられた皆さまに心よりお見舞い申し上げます。一日も早い復旧をお祈りいたします。
さて、マイナンバーカードを活用したオンラインでの確定申告が急速に普及し、特にe-Taxの利用が一般化してきたと報道されています。一方JRではみどりの窓口が大幅に削減され対面サービスが減り、座席指定はオンラインが基本となりました。オンライン座席指定ができない人は早めにホームに並び自由席を利用していましたが、昨今全席指定で自由席が無い列車が増え、大変困っておられると聞きます。またタクシーも、スマホでの配車予約が増え、街を流す車両が減り、スマホを使えない高齢者が路上でタクシーをじっと待つ姿が散見されます。DXが進む中で、デジタル弱者の「生きづらさ」を取り除く取り組みが必要ではないでしょうか。

国立科学博物館附属自然教育園に咲くカタクリ(2023年3月21日筆者撮影)
日本が掲げる未来社会のビジョン「Society 5.0」はデジタル空間とリアル空間を高度に融合させ、経済発展と社会課題の解決を両立する人間中心の社会を目指しています。しかし、この実現に向けて最大の課題となるのが「デジタル・デバイド(情報格差)」です。現代の日本社会では、リアル空間におけるバリアフリーが一定の普及を見せていますが、デジタル空間においてはまだ十分な対応が進んでいません。この状況を打破するためには、デジタル空間におけるバリアフリー、すなわち「デジタル・バリアフリー」を新たな概念として位置づけ、積極的に推進していく必要があります。
デジタル・バリアフリーとは、年齢や障害の有無、地域的な制約、経済的な状況にかかわらず、すべての人がデジタル技術やサービスを平等に利用できる環境を整備することを指します。例えば、高齢者や障がい者が直面するデジタル機器の操作の難しさ、地方に住む人々が抱える通信インフラの不足、さらには経済的な理由でデジタルデバイスを持てない人々への支援など、多岐にわたる課題を包括的に解決する取り組みが求められます。このような取り組みは、単に技術的な問題を解決するだけでなく、社会全体の包摂性を高め、誰もがデジタル社会の恩恵を享受できる環境を作り出すことにつながります。政府、企業、教育機関、地域社会が一体となり、技術開発やインフラ整備、教育・啓発活動を通じて、デジタル・デバイドの解消に取り組むべきです。
未来の社会を築くためには、誰一人取り残さないという理念をデジタル空間にも適用し、すべての人が安心して利用できるデジタル社会を構築することが重要です。デジタル・バリアフリーの実現こそが、Society 5.0の成功の鍵となると確信しています。
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