キタコンDXへの期待と懸念
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田中純一
一般社団法人ビル減災研究所 代表理事
一般財団法人AVCC理事
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2月14日に東京都・千代田区合同の帰宅困難者対策訓練が行われました。(「朝日新聞デジタル 「帰宅困難者」対策の最前線 訪日外国人やテレワークにどう対応 2025年3月10日)東京都心に勤務する方々にはもう珍しくないイベントかもしれませんが、今回は今月末にも運用開始となりそうな「東京都帰宅困難者対策オペレーションシステム」(通称キタコンDX)の実務的検証も大きなテーマでした。
かねて千代田区と帰宅困難者等一時受入施設の協定を結んでいるKK2も、既にキタコンDXシステムへの接続IDとパスワードを得ており、いつでも運用できる状態となっています。DXが首都直下地震で5百万人を超える帰宅困難者の混乱を抑制する効果をもたらすと期待がかかっていると言えそうです。

著者撮影
キタコンDXでは、QRコードの読み取りで最寄りの利用可能な(満員でない)一時滞在施設を容易に把握でき、ナビで誘導、当該施設の利用登録もQRコードの読み取りで行われます。この結果、自動的に施設の滞在者情報が記録され、受け入れ余力もリアルタイムで把握できることになり、それが行政からの情報提供に生かされるというような連鎖で大いに効率化が図れることになります。
しかしながら、行政と施設運営担当者の作業は軽減できるとしても、QRコードの読み取りを大集団である帰宅困難者自身が問題なくできるのでしょうか。都心のビルに勤務する方は帰宅抑制政策に従って自分のオフィスにとどまるので、一時滞在施設に向かうことは想定外です。帰宅難民とも呼ばれることがある、居場所のない方がQRコード操作を行うことになるはずですから、スマホ弱者も想定に入ります。今回の訓練ではDX支援担当というスタッフが多く配置され、帰宅困難者役の参加者にアドバイスをしていましたが、災害時には、いないスタッフです。また平常時、街なかのどこに専用QRコードが掲出されているのかも気になるところです。非常用のものを普段づかいしようというフェーズフリーという考え方がここでも生かされるべきだと感じました。
さらに、DXの常ではありますが電力の確保が必須となります。キタコンDXのサーバーを抱える行政は非常用電源を確保していると思いますが、一時滞在施設は多様な建物所有者に提供を要請している関係で、電源の確保が十分でないかもしれません。帰宅困難者自身のスマホのバッテリー残量も減ってくるので、予備バッテリーを持ち歩くことがフェーズフリー、新しい日常習慣なのかもしれません。
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