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メッセージ from KK2
KK2weekly【メッセージfromKK2】(第883号 2025年3月28日発行)byAVCC
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地下鉄サリン事件から30年
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古賀 伸明
元連合会長
公益社団法人国際経済労働研究所会長
一般財団法人AVCC理事
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東京都心の日比谷線など3路線で散布された猛毒のサリンで、死者14人、負傷者6,000人以上を数えた「地下鉄サリン事件」の発生から30年が経過した。この事件はオウム真理教という新興宗教団体が起こした日本犯罪史上最悪の無差別テロである。
オウム真理教の台頭には、当時の社会情勢が深くかかわっている。1980年代後半から90年代初頭にかけて、日本はバブル経済の崩壊による不況に突入し、先行きの見えない不安が社会全体を覆っていた。特に、若者を中心に「生きる意味」を見失う者が増え、オウム真理教のようなカリスマ的指導者を持つ団体が、その不安に付け込む形で信者を獲得していった。
信者の多くは高学歴の若者であり、優秀な理系技術者や医師も多数在籍していた。彼らの知識が、化学兵器の開発や組織運営に活用され、結果として国家転覆を目指すテロ活動にまで発展した。
宗教は本来、人生の意味を探求し精神的な支えを提供するものであり、決して危険なものではない。しかし、社会の不安が高まり国家や個人のアイデンティティが揺らぐと、極端な宗教やカルトが勢力を拡大する傾向がある。この事件は、日本における宗教の在り方を問い直す契機となった。
事件後、日本社会は新興宗教に対する警戒心を強めた。1999年には「団体規制法」が制定され、カルト的な団体の活動を厳しく監視する枠組みが作られた。しかし、単に規制を強めるだけでは根本的な問題解決にはならない。
社会の不安定要因を減らすことが基本だ。社会が個人の精神的な不安を理解し、適切な支援を行うことが求められる。社会的・経済的な格差の拡大は、オウム真理教のような団体が人々を取り込む要因となる。経済的な安定と若者が将来に希望を持てる社会を作ることが、カルトへの依存を防ぐ第一歩である。
また、カルトが生まれる背景には、宗教リテラシーの欠如も指摘される。多くの日本人は、伝統的な仏教や神道に親しみはあるものの、宗教についての深い知識は持たない。このため、危険な思想を持つ団体に対しても、「なんとなく良さそうだ」という印象だけで関わってしまうことがある。
宗教や哲学についてのリテラシーを高め、極端な思想に対する免疫をつけることが求められる。宗教そのものを否定するのではなく、正しい理解を深めることが必要だ。また、科学技術の発展と倫理教育を両立させることで、知識が犯罪に悪用されるのを防ぐことも重要である。
オウム真理教の信者には、社会に居場所を見出せなかった者が多かった。行政や地域社会が、人々の悩みに寄り添い、相談できる環境を整え、個人が孤立しない社会を創ることが、過激な思想への傾倒を防ぐ鍵となる。
カルトの危険性についての啓発活動を続けることも大切だ。事件が起きた30年前と同様の問題は、現代社会にも存在している。同じ悲劇を繰り返さないためには、事件の記憶を風化させず、社会全体で警戒し続けることが不可欠だ。事件を忘れず、そこから学び続けることこそが、社会全体の安全を守ることにつながる。
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古賀 伸明
1952年生まれ。松下電器産業(現パナソニック)労組中央執行委員長を経て、2002年電機連合中央執行委員長、05年連合事務局長。09年から15年まで第6代連合会長を務めた。その後22年まで連合総研理事長を務め、現在は国際経済労働研究所会長。一般財団法人AVCC理事。
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[KK2で公開している関連プログラム]
「現代社会と宗教」柴田文啓さん【メッセージfromKK2】(第853号 2024年8月30日発行)
「宗教とはどういうものか」柴田文啓さん第十二回霞が関坐禅会(収録日2023年3月9日)
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