メッセージ from KK2

KK2weekly【メッセージfromKK2】(第887号 2025年4月25日発行)byAVCC

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トランプショックの本質と日本

古賀 伸明
元連合会長
公益社団法人国際経済労働研究所会長
一般財団法人AVCC理事

 トランプ米国大統領は、自国産業の保護と貿易不均衡の是正を目的として、「相互関税(reciprocal tariffs)」の導入を発表した。この政策は、米国が他国から受ける関税と同等の関税を相手国に対しても課すというものであり、米国の製造業や農業にとっての競争力回復を狙っている。しかし、発表後の市場の混乱を受け、トランプ政権は一旦この措置を90日間保留する決定を下した。この短期間の保留が世界経済や国際関係にどのような影響を与えるのか、今後の動向が注目されている。この相互関税政策は、表面的には「フェアな貿易体制を実現するための対抗措置」とされているが、その本質は、戦後の自由貿易体制での国際秩序の根幹に対する挑戦に他ならない。

 第二次世界大戦後、アメリカは「自由貿易」「民主主義」「多国間主義」を基本とした秩序を築き、世界経済の安定と成長を主導してきた。WTO(世界貿易機関)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行といった制度も、米国の主導のもとに設計された。しかし、相互関税という政策は、その制度を内側から否定する動きであり、米国自身が「自らがつくった秩序」に信頼を置かなくなっている兆候ともいえる。これは、戦後の米国のリーダーシップの変質を示唆している。確かに、米国の一極支配的な時代、いわゆる「パックス・アメリカーナ」の終焉を感じさせる要素は、これまでも民主党政権時も含めて多くあった。国内では格差が拡大し、中間層の不満がポピュリズムの台頭を促し、外交では「アメリカ・ファースト」を掲げて国際的な協調を軽視する姿勢が目立っていた。しかし一方で、「アメリカの時代が完全に終わる」と断定するのはやや早計かもしれない。むしろ現在のアメリカは、「世界の警察官」から「一国家プレイヤー」への脱皮過程にあるとも考えられる。

 トランプ政権の政策は、冷戦後のグローバル秩序の限界を露呈させると同時に、「米国にとっての国際秩序とは何だったのか」という問いを再定義しようとしている。つまり、「米国の時代の終焉」というよりは、「米国の役割の変質」という方が、今の動きをより正確に表している。なによりも、米国が依然として巨大な経済・軍事力・文化力を持つこともまた事実だ。したがって、これからは「米国とどうつき合うか」が各国の対米戦略の核心となり、世界はより柔軟で多様なパワーバランスを前提とした「多極化の時代」に突入していくことになるだろう。日本は、冷静かつ戦略的な対応ができるポジションにある。米国と正面から対立するのではなく、パートナーとして信頼関係を維持しつつ、多国間主義と自由貿易の理念を守る「橋渡し役」としての役割を果たすべきだ。米国一辺倒ではない、多元的な外交と経済連携が不可欠であり、EU・ASEAN・中国とのより深い関係構築は、まさにその柱となるべき戦略だ。その上で、自国経済の強化とリスク分散を同時に進めていくことが、これからの不確実な国際環境を生き抜いていく鍵となる。

古賀さん 古賀 伸明
1952年生まれ。松下電器産業(現パナソニック)労組中央執行委員長を経て、2002年電機連合中央執行委員長、05年連合事務局長。09年から15年まで第6代連合会長を務めた。その後22年まで連合総研理事長を務め、現在は国際経済労働研究所会長。一般財団法人AVCC理事。

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