メッセージ from KK2

KK2weekly【メッセージfromKK2】(第900号 2025年7月25日発行)by AVCC

誰にでも起こり得る冤罪

古賀 伸明
元連合会長
公益社団法人国際経済労働研究所会長
一般財団法人AVCC理事

 与党が大敗した第27回参議院通常選挙の投開票日を2日後に控えた7月18日、福井市で女子中学生が殺害された事件の再審・やり直し裁判で、前川彰司さんに無罪判決が言い渡された。39年の月日が流れている。

 冤罪という言葉には、あまりにも重く、深い意味が込められている。それは単なる司法の誤りだけの問題ではなく、一人の人間の人生、尊厳、未来までをも奪い去る暴力に等しい。私たちは39年前の事件の再審、そして無罪の判決に安堵する一方で、なぜこれほど長い年月が必要だったのか、なぜ冤罪が起こるのか、どうすれば防げるのか、そして奪われた人生に誰が責任を取るのかを考えなければならない。静岡県一家4人殺害事件で死刑が確定していた袴田巌さんは58年を経て再審無罪となった。私たち自身の39年前、58年前を思い浮かべただけでも、何と長い年月か。

 冤罪の主な原因は、「自白偏重」と「密室での取り調べ」にある。日本では自白が重要視され、取り調べで自白を引き出すことが目的化してしまう傾向がある。取り調べの録音・録画は一部の重大事件に限られ、多くは密室で行われている。

 また、一度「犯人」と見なされると、そのストーリーに沿った証拠が優先され、矛盾する情報は軽視される「確証バイアス」も問題だ。さらに、弁護側には証拠収集や専門家による鑑定を行う資源が乏しいという現実もある。近年、冤罪を防ぐためにいくつかの改革が進んでいる。取り調べの可視化が限定的ながら導入され、DNA鑑定や防犯カメラの活用も進む。

 再審制度の見直しも重要な課題だ。日本では再審のハードルが非常に高い。新証拠が出ても、裁判所が再審を認めるには「無罪の確実性」が必要とされる場合もある。これに対し、法曹界からは再審制度の改善、検察による証拠開示の義務化、独立した調査機関の設置などが提案されている。先の国会では、袴田さんの冤罪確定によって、野党6党の改正案も提出された。

 無罪が確定しても、冤罪によって奪われた人生は戻らない。日本では刑事補償制度があるが、拘束日数に応じた金銭的補償だけでは、精神的・社会的損害には到底足りない。

 さらに、捜査・起訴に関わった関係者が責任を問われることはほとんどない。欧米では、誤判被害者への社会復帰支援や公的な謝罪が制度化されている例もある。日本でも、名誉回復の機会や生活再建の支援、再発防止の検証が求められる。

 冤罪とは、制度の歪みが個人に襲いかかる最悪の形である。そしてその制度をつくるのは、私たち一人ひとりの社会の意識である。マスコミ報道に安易に流され、「逮捕された=有罪」と考える風潮、容疑者や被告を人権のない存在とみなす空気、それらが冤罪を生む背景となっている。

 冤罪は、誰にでも起こりうる。たまたまその場にいただけで、たまたま通報されたことで、人生が崩壊することがある。だからこそ、冤罪を「他人事」ではなく、「自分事」として考え、制度改革と社会の意識変革を進めていかなければならない。

古賀さん 古賀 伸明
1952年生まれ。松下電器産業(現パナソニック)労組中央執行委員長を経て、2002年電機連合中央執行委員長、05年連合事務局長。09年から15年まで第6代連合会長を務めた。その後22年まで連合総研理事長を務め、現在は国際経済労働研究所会長。一般財団法人AVCC理事。

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