メッセージ from KK2

KK2weekly【メッセージfromKK2】(第909号 2025年9月26日発行)by AVCC

政治空白

古賀 伸明
元連合会長
公益社団法人国際経済労働研究所会長
一般財団法人AVCC理事

 「政治空白(ポリティカル・ヴァキューム)」とは、国家や政府の最高意思決定機構が十分に機能していない状態をいう。法律的には内閣や首相が在任期間にあり、政権の法的正統性が損なわれているわけではない場合でも、政治的・実務的な指導力や統率力が弱い、政策決定が停滞する、公的な方針や責任の所在が曖昧になるなどの特徴を含む。

 石破茂首相が辞任を表明したのは、党による事実上の「引きずり降ろし」が目前に迫ったタイミングでもあった。現在、自民党では新総裁を選ぶ総裁選の真っ只中だ。首相交代は日本政治では一定の慣例だが、今回のようなケースは、国民に「政治空白」という不安を呼び起こす。

 総裁選で新しいリーダーが確定するまでの期間は、この「政治空白」が生じる可能性が高い。7月に参院選が終わり、本格的論戦の臨時国会は10月中旬から下旬となる。3ヵ月の「政治空白」といってもいい。それまでの間、石破氏は「職務執行内閣」の立場で首相職に留まるが、レームダック状態のため、新規の政策決定や大胆な政治判断は不可能である。

 また、新総裁はまず党内の結束を取ることに注力せざるを得ず、外部に対する政策発信や重要判断は後回しになりがちとなる。

 この自民党内の政変は、国民の日常生活に直接的な影響を及ぼす可能性がある。政治の空白期間中に物価対策や経済政策の停滞が生じれば、既に記録的な物価高に苦しむ家計にさらなる負担がかかる。また、円相場の不安定化により輸入物価が上昇し、ガソリン代や食料品価格がさらに上がる恐れもある。

 政治空白は政府の危機対応能力にも影を落とす。自然災害や感染症の急拡大など緊急事態が発生した場合、決断すべきトップがレームダック状態では十分な指揮が執れない恐れがある。大規模な政策変更や予算措置を要する場合、国会の承認や新内閣での決定が必要となり、タイムラグが発生する。

 さらに、国際社会においても、首相=国家の顔として外交・安全保障でのメッセージが重要であり、その意味でも空白は国益に関わる。日本の政治的安定は地域と世界の安定に直結する。中国の台頭、ロシアの侵略、北朝鮮の脅威という複合的危機に直面する中、日本が内向きにならず国際的責任を果たし続けることが求められている。

 最も深刻なのは、この内輪揉めが国民の政治不信を一層深刻化させることだ。石破政権は「政治とカネ」の問題などで傷ついた自民党の信頼回復を掲げていたが、再生への具体的道筋はつけていない。

 石破首相退陣の波紋は今後も広がり続けるだろう。その間に生じる影響を軽視することはできないが、この危機を契機として、より強靭で国民に寄り添う政治システムが構築されることを期待したい。それは私たち一人ひとりの政治への関心と参加にかかっている。私たちが、制度と政治過程への関心を持ち、日常の生活・地域での役割も見つめ直すことが、健全な民主主義を支える基盤であり、政治を成熟させる一歩となる。

古賀さん 古賀 伸明
1952年生まれ。松下電器産業(現パナソニック)労組中央執行委員長を経て、2002年電機連合中央執行委員長、05年連合事務局長。09年から15年まで第6代連合会長を務めた。その後22年まで連合総研理事長を務め、現在は国際経済労働研究所会長。一般財団法人AVCC理事。

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