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メッセージ from KK2
KK2weekly【メッセージfromKK2】(第913号 2025年10月24日発行)by AVCC
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ノーベル賞2人同時受賞
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古賀 伸明
元連合会長
公益社団法人国際経済労働研究所会長
一般財団法人AVCC理事
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国際情勢の緊張や日本の政治・社会の閉塞感に包まれる近頃、久しぶりに心が晴れるような朗報が届いた。スウェーデンの王立科学アカデミーは今月6日、今年のノーベル生理学・医学賞に大阪大学特任教授 坂口 志文氏を選び、8日にはノーベル化学賞を京都大学特別教授 北川 進氏に贈ると発表した。
坂口氏の「制御性T細胞(Treg)」の発見は、免疫の暴走を抑えるブレーキ役を世界で初めて明らかにしたものであり、自己免疫疾患や臓器移植の研究に新たな道を開いた。北川氏の「多孔性金属錯体(MOF)」は、分子を自在に取り込む“夢の物質”として、エネルギー貯蔵や環境浄化など多分野での応用が期待される。いずれも、常識にとらわれない独創的な発想と、長年の地道な実験の積み重ねが生んだ成果だ。
両氏に共通するのは、学界の冷たい視線にも屈せず、信念をもって研究を続けた強い精神力だ。坂口氏は「大切にしている言葉は『一つ一つ』」と語り、北川氏は荘子の「無用の用」を挙げた。
日本人2人の同時受賞は、2015年以来10年ぶり。自然科学分野では27人目の快挙であり、世界に誇る成果だ。しかし、手放しで喜んでばかりはいられない。両氏の研究はいずれも1980~90年代に始まったもので、受賞は前世紀の業績に対する評価だ。つまり、現在の日本の科学研究の実力をそのまま反映したものではない。
実際、日本の研究力はこの20数年で著しく低下している。1990年代には世界4位だった有力論文数が、今や13位に後退。特に「役に立つかどうか」に偏った政策のもとで、自然の理(ことわり)を探る基礎研究が軽んじられてきた。
政府は2000年以降、研究投資の「選択と集中」を掲げ、国立大学の運営費交付金を削減する一方、公募型の競争的資金を拡充した。研究者は短期間で成果を示さなければならず、資金獲得のための書類づくりや会議に追われ、肝心の研究時間が奪われている。若い研究者が自由な発想でテーマを追うことが難しい構造が、長期的には日本の科学の地盤沈下を招いている。
坂口氏が記者会見で「日本は基礎科学への支援が不足している」と訴えたのは、まさにこの状況を憂えてのことだ。北川氏も「若い人がじっくり研究に打ち込める環境を」と、研究支援人材の拡充を要望した。いずれも繰り返されてきた指摘だが、改善は遅れている。
科学の本質は、目先の成果ではなく「未知への探究」にある。坂口氏が自説を証明するまでに20年、ノーベル賞にたどり着くまでに40年かかったように、基礎研究は一朝一夕では実を結ばない。だからこそ、国家は長期的な視野で研究を支える責任がある。短期的な「効率」や「成果主義」だけでは、未来を切り開く発見は生まれない。自由に考え、失敗を恐れず挑戦できる文化を取り戻さねばならない。
坂口氏と北川氏の受賞は、未来への警鐘でもある。両氏のような粘り強い研究が次の世代からも生まれるよう、研究者を支える環境づくりを急ぐべきだ。そのことが、日本の再生の鍵となるだろう。
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古賀 伸明
1952年生まれ。松下電器産業(現パナソニック)労組中央執行委員長を経て、2002年電機連合中央執行委員長、05年連合事務局長。09年から15年まで第6代連合会長を務めた。その後22年まで連合総研理事長を務め、現在は国際経済労働研究所会長。一般財団法人AVCC理事。
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