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メッセージ from KK2
KK2weekly【メッセージfromKK2】(第918号 2025年11月28日発行)by AVCC
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閉幕したデフリンピック
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古賀 伸明
元連合会長
公益社団法人国際経済労働研究所会長
一般財団法人AVCC理事
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独特の緊張が張り詰める。コートには、シューズが床を擦るキュッ・キュッという音とドリブルの音とが響く。ボールがバスケットリングに吸い込まれていった瞬間の観客席からの大きな拍手に加え、顔の両脇で手をひらひらさせる「拍手」を表す手話、今大会を機に生まれた「サインエール」だそうだ。自宅から比較的近い会場で、日本代表のバスケットボールを観戦した時、初めて私はデフリンピックという大会の空気を感じた。
今月26日に閉幕した「第25回夏季デフリンピック競技大会 東京2025」。1924年に始まり、パラリンピックよりも長い歴史を持ちながら、日本での開催は今回が初めてだ。80の国と地域から約3,000人の選手が集い、12日間で21競技が行われた。
聴覚障害は外見では分かりにくく、コミュニケーション手段も多様だ。こうした特性から、パラリンピックとは別の発展を遂げてきた。しかし一方で、デフリンピックの認知度は依然として低い。
2023年の東京都の調査では、パラリンピックを知っている人が93%なのに対し、デフリンピックは15%。今回の自国開催は、その差を埋める重要な契機になり、2024年11月の調査ではデフリンピックの認知度は39%と、開催を前に急速に上昇した。選手自身がイベント出演を重ね、社会に存在を伝えようと努力している姿が印象的だった。
競技会場では、聴覚障害に合わせた工夫が行われたという。陸上ではスタートの電子音と連動したランプが点灯し、柔道では審判が肩を軽く叩いて合図を送る。サッカーではレフリー全員が旗を持ち、視覚的に判定を知らせる。
「音のない世界」で競技する選手たちの集中力は圧倒的だ。呼吸音も足音も聞こえない中で、目の動き、表情、身体のわずかな傾きが仲間とのコミュニケーションとなる。特にチーム競技では、静けさの中に高度な連係が研ぎ澄まされており、これこそデフリンピックならではの魅力だと強く感じた。
大会のビジョンは「誰もが個性を活かし、力を発揮できる共生社会の実現」だ。聴覚障害は「見えにくい障害」であり、理解が届きにくい。その壁を乗り越えるきっかけとして、今回の大会は大きな意味を持ったと思う。障害の有無にかかわらずスポーツを楽しめる社会のあり方を、多くの観客が考える機会になっただろう。
同時に、疑問も浮かび上がった。国際スポーツ大会であるにもかかわらず、なぜ国立競技場が使われなかったのか。仮に予算上の問題であれば、デフリンピックのような社会的意義ある大会に十分な支援が届かないのは何故か。障害者スポーツをどう位置づけるのか、日本社会としての姿勢が問われる。
日本は1965年からデフリンピックに参加してきた。この東京大会を節目として、手話への理解や聴覚障害者のスポーツ環境整備を一層進めるべきだ。大会は終わったが、その意義はむしろこれからが本番である。
静寂の中で力を尽くし、限界を超えようとする選手たちの姿は、多くの人の心に残ったはずだ。デフリンピックが示した「誰もが力を発揮できる社会」という問いに、私たちは今後どう応えていくのか。そのことに、一人ひとりが向き合い考える機会としたい。
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古賀 伸明
1952年生まれ。松下電器産業(現パナソニック)労組中央執行委員長を経て、2002年電機連合中央執行委員長、05年連合事務局長。09年から15年まで第6代連合会長を務めた。その後22年まで連合総研理事長を務め、現在は国際経済労働研究所会長。一般財団法人AVCC理事。
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