人間拡張の時代に、私たちはどう向き合うのか
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伊庭野基明
一般財団法人AVCC理事
KK2グローバルキャリアカウンセラー
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私が新社会人としてIBMに入社した頃、コンピュータは巨大なメインフレームとして専用の空調室に鎮座していました。紙に穴をあけた「パンチカード」でプログラムやデータを入力し、処理結果は「連続用紙」に印字されて出てくる――すべてが目に見える世界でした。それがやがて小型化し、PC、さらにスマートフォンへと進化します。情報の蓄積量、伝達速度、処理能力は加速度的に向上し、私たちの仕事や生活は大きく変わりました。
そして今、AIはその延長線上で、あらゆる分野に急速に浸透し始めています。文章や画像を生成するAI、業務を支援する各種ツール、組み込みシステムやサービスなど、その広がりは多岐にわたります。その中でも、私たち一人ひとりが日常的に使う「個人が直接使うAI」は、単なる道具を超え、思考や判断そのものに関わり始めています。マクルーハンのいう「人間拡張」は、いま新たな段階に入っていると言えるでしょう。
 コンピューターの進化をAIで作成
すでに職場では、AIを使いこなして知識や判断を高速に拡張する人と、従来のやり方に留まる人との間に差が生まれ始めています。いわば“使う人”と“使わない人”の分岐です。しかしこれは特定の人の問題ではなく、同じ人の中でも日々揺れ動く変化かもしれません。変化を理解しながらも踏み出せない自分と、新しいやり方を試そうとする自分。その間で揺れる感覚を、多くの人が抱えているのではないでしょうか。こうした変化は、2月号や4月号で触れてきた「内なるグローバル化」――すなわち異なる前提を持つ他者と共に働く環境の広がりとも重なっているように感じられます。
さらに、この分岐は個人の問題にとどまりません。AIの活用は個々人の試行錯誤に委ねられますが、その経験が共有されるかどうかによって、組織全体の力には大きな差が生まれます。日々の小さな試行や気づきが組織の中で蓄積され、他者に広がっていくことで、個人を超えた学びが生まれていきます。こうした知の循環があるかどうかが、これからの差を大きく左右していくでしょう。
これまで日本企業は「メンバーシップ型」から「ジョブ型」へ移行すると言われてきましたが、AI時代においては、知識や試行を共有しやすいメンバーシップ型の仕組みが、むしろ新たな強みとなる可能性も見えてきます。
人間拡張の先にあるこの変化は、未来ではなく、すでに始まっているリアルです。私たちはその中で、どのように共に考え、どのように共に学び、どのように共に社会を担っていくのかを、いま自ら選び取ることを求められているのではないでしょうか。
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