防災!? 熊にも備えよう
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秋田 義一
一般社団法人話力総合研究所 理事長
一般財団法人AVCC理事
防災士
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数年前のことです。東京都あきる野市、秋川渓谷に沿った林道を歩いていました。コロナ禍が明けたばかりの時期で、人も車もほとんど通りません。そんな静けさの中、突然、野生の猿の集団が行く手をふさぎました。おそらく十頭ほどはいたでしょうか。猿とはいえ、襲われれば大けがにつながります。走って逃げれば追われるかもしれない。まさに緊張の瞬間でした。とっさに持っていた防災笛を鳴らしながら、ゆっくりと前進しました。幸いにも猿たちは私を遠巻きに囲みつつ、少しずつ後退し、一頭、二頭と林の中へ姿を消していきました。胸をなでおろしたのを覚えています。
近年、全国各地で熊による人的被害が相次ぎ、深刻な社会問題となっています。特に秋田・岩手・新潟など東北地方では、住宅地や市街地にまで熊が出没する事例が増えています。2026年6月9日には栃木県宇都宮市の中心部に熊が現れ、翌10日には兵庫県神戸市でも初めて目撃されました。東京都八王子市でも熊の出没が確認されており、いずれ東京23区に姿を見せても不思議ではありません。猿でもあれほど緊張するのに、相手が熊となればなおさらです。
熊が人の生活圏に出てくる背景には、温暖化による餌資源の変動、里山の管理不足、人口減少による農地放棄、そして人間の生活圏と野生動物の生息域が重なりやすくなったことなど、複数の要因が複雑に絡み合っています。
行政や地域では、電気柵の設置、捕獲わなによる個体管理、出没情報の迅速な共有、パトロールの強化など、さまざまな対策が進められています。また、熊の行動把握や山林の餌資源の調査など、科学的知見に基づく取り組みも行われています。しかし、対策には限界があります。捕獲を続けるだけでは根本的な解決にはつながりません。人と熊が適切な距離を保てる環境づくり、長期的な視点での生態系管理が求められているのではないでしょうか。
今後の取り組みとしては、地域の実情に応じた対策が欠かせません。放置された果樹や農地の管理強化、山林の整備、熊が人里に降りてこないような餌資源の確保、さらにはカメラ・センサー・ドローンなどICTを活用した監視システムの導入も有効です。地域ボランティアによる見回りや、子ども・高齢者への安全教育も重要です。行政・研究機関・地域社会が連携し、科学的知見に基づいた持続可能な対策を進めていく必要があります。
一方で、私たち一人ひとりの心がけも欠かせません。「私は大丈夫」と思い込む正常性バイアス(安全だとの思い込み)が働いていませんか。山に入る際は鈴やラジオで存在を知らせる、単独行動を避ける、食べ物を山中に残さない、出没情報を確認する。こうした基本的な行動が事故防止につながります。また、「珍しいから」と熊に近づいたり、SNS目的で撮影したりする行為はたいへん危険です。人間の行動が野生動物の行動を変えてしまうことを理解し、適切な距離を保つことが大切です。

事務局作図
熊被害の問題は、単なる「害獣対策」ではありません。人と自然の関係をどう築くかという、より大きな課題でもあります。私たちが自然と共に生き、安全で安心な暮らしを続けていくために、まずはできることから取り組んでいきましょう。
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