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メッセージ from KK2

KK2weekly【メッセージfromKK2】(第957号 2026年8月28日発行)by AVCC

縁食 ―ゆるやかなつながりが支える社会

古賀 伸明
元連合会長
公益社団法人国際経済労働研究所会長
一般財団法人AVCC理事

 20年来の付き合いをさせてもらっているG教授と、先日久しぶりにお会いした。その際、数年前にG教授からいただいたメールを思い出した。そこには、歴史学者・藤原辰史さんの著書「縁食論―孤食と共食のあいだ」が紹介されていた。

 藤原氏は、食事のあり方を「孤食」と「共食」という二つの言葉だけで捉えることに疑問を投げかける。孤食とは一人で食べる食事であり、共食とは家族や友人、仲間とともに食卓を囲むことだ。一般には「共食は良いこと」「孤食は寂しいこと」と語られがちである。しかし現実はそれほど単純ではない。家族関係に悩みを抱える人もいれば、職場の飲み会のような半ば強制的な共食に苦痛を感じる人もいる。

 そこで藤原氏が提唱するのが、孤食と共食の中間に位置する「縁食」だ。家族のように密接ではないが、まったくの他人でもない。互いを過度に干渉することなく、適度な距離感を保ちながら食事の場を共有する。そこには強い義務も責任もないが、人と人とのゆるやかなつながり、「縁」が生まれる。

 藤原氏はこうした場を、家庭でも職場でもない「第三の場所」として重視している。例えば、子ども食堂や昔ながらの地域の食堂、あるいは炊き出しや居酒屋のカウンター席などがその例として挙げられるだろう。そこでは家族や友人ではない人々が同じ空間で食事をする。会話を交わすこともあれば、ただ同じ場所で黙って食べるだけのこともある。それでも、人の気配を感じ、自分が社会の中にいることを確かめることができる。

 現代社会では家族の小規模化や単身世帯の増加が進み、地域社会のつながりも弱くなった。また、貧困や孤立が見えにくくなり、困難を抱える人が一人で苦しみを抱え込むことも少なくない。こうした状況に対して、私たちはしばしば制度や政策の充実を求める。しかし藤原氏は、それと同時に人と人とを結び付ける日常的な場の重要性を指摘しているのだ。

 確かに、社会保障制度や行政サービスは欠かせない。しかし、人は制度だけで生きているわけではない。誰かと同じテーブルにつくこと、顔見知りになること、名前を知らなくても挨拶を交わすこと。そうした小さな関係の積み重ねが、人々の安心感や信頼感を育てる。

 「縁食」という言葉には、単なる食事のスタイルを超えた意味が込められている。それは現代社会における連帯の哲学であり、人と人との関係を考え直すための提案でもある。人間は決して一人だけで生きているのではない。出会い、語り合い、ときには支え合いながら生きている。家族や親しい友人だけではなく、少し離れたところにいる誰かを信頼できる社会こそが、安心して暮らせる社会ではないだろうか。

 分断や孤立が深まる時代だからこそ、「縁食」が示すゆるやかなつながりの価値を改めて見つめ直したい。そして、身近な地域の中に、人がふらりと立ち寄り、食事をしながら誰かの存在を感じられる場を少しでも増やしていくことが、これからの社会に求められているように思う。

古賀さん 古賀 伸明
1952年生まれ。松下電器産業(現パナソニック)労組中央執行委員長を経て、2002年電機連合中央執行委員長、05年連合事務局長。09年から15年まで第6代連合会長を務めた。その後22年まで連合総研理事長を務め、現在は国際経済労働研究所会長。一般財団法人AVCC理事。

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