『稼げる観光』 (鈴木 俊博 著)
『稼げる観光』 ‐地方が生き残り潤うための知恵
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■観光にまで発展した、上勝町の葉っぱビジネス
人が幸せを感じる地域社会を実現する鍵は、住む人も主役、訪れる人も主役になれる、という、新しいタイプの「観光」にある。「小学生30人31脚全国大会」など数々のヒット企画を成功させたプロデューサーである著者は、全国に埋もれていた「観光」がいかに発掘され、育て上げられたかの例を挙げつつ、著者自身のアイデアも紹介している。
徳島県上勝町は、徳島市内から車で1時間かかる農村だが、そこで暮らすおばあちゃんたちがいきいきと働く姿はCMにもなり、現在、上勝町を訪れる観光客は年間8万人を超える。
上勝町では、1981年の大寒波で産業の大黒柱であるミカンが全滅するという大惨事があった。その難局を乗り越えるため、農協職員だった横石知二氏が「お年寄りや女性でもできる農業」として考えたのが、料理を彩る青モミジや笹などの「葉っぱ」の収穫だった。これらの「つまもの」をきれいにパックした商品は『彩(いろどり)』と名付けられ、大ヒットしたのである。 -
■観光の発想は、まず“人”という対象ありき
これからの「観光」は、消費者のニーズに合わせ、ますます多様化、細分化していくことが予想され、仕掛ける側にも柔軟な発想が求められている。
一例として、徳島県阿波市では、きれいに手入れをした自分の庭を見てもらう「オープンガーデン」が人気となりつつある。庭をつくった本人からすれば、庭を褒めてもらうだけで大満足だろう。しかし、近くの観光施設や商業施設と連携してさらなる誘客を図り、地元の名物である『たらいうどん』の広報を兼ねた「たらいガーデニング」などで「稼げる」形を作ったらどうかと著者は提案する。“人”の能力をみつけて、それをもっと活かすことこそプロデューサーの仕事である、という。
また、どんな“人”を呼んで楽しませたいのか。この発想がないと、アイデアはひとりよがりなものになってしまう。ひとりよがりなものには誰も足を運ばず、お金も払わない。「観光」の発想は、まず“人”という対象ありき、これが鉄則である。 -
◎著者プロフィール
東武トップツアーズ顧問、教育研究団体TOSSの教育事業本部長、(株)いろどりアドバイザー兼プロデューサーなどを務める。静岡県生まれ。信用金庫へ就職後、イベント総合研究所長・遠藤博元氏に師事して独立。遊び心を発想の起点として企業及び地域のイベント、商品開発、販売促進、施設開発などの企画から実施に導くプロデューサーとして幅広く活動する。著書に『いろどり社会が日本を変える』(ポプラ社)など。