『新版 ディズニーリゾートの経済学』 (粟田 房穂 著)
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■「広さ」が人を引きつける
東京ディズニーランド(TDL)は、これまでの訪問者累計が5億人を超えた、いまや国民的なレジャー施設である。本書において著者は、ディズニーランドにいろいろな角度から焦点をあわせることで時代の流れや雰囲気を鮮明に読み取り、ビジネスモデルのヒントを示そうと試みている。
TDLの魅力のひとつは、51ヘクタール(約15.5万坪)という広さである。1日園内を周って遊んでも、全体の3分の1弱は体験できずに帰ることになる。元社長の加賀美俊夫氏は、この広さを「テーマパークとしていちばんいい規模」だと語っている。楽しみ損ねたアトラクションが残り、ゲストはTDLで遊んだことに満足するが、心残りも抱えて帰宅する。不満だが、かならずしも不快なものではない。ゲストはTDLに満足したからこそ、回り切れずに帰らなければならない「現実」に不満を抱く。この「不満」が、心地いい余韻となり再訪の動機になるのである。 -
■ディズニーという「ブランド」の力
ディズニーランドでは、従業員はすべてキャストと呼ばれる。それぞれが与えられた役割を演じる出演者という考え方である。いろいろなコスチュームを身につけ、与えられた役割を懸命に演じるキャストを育てることで、従来の遊園地のサービス水準をはるかに超えた。ゲストを楽しませるためには、まずキャストが率先して楽しく働くこと、そのためにキャストに誇りを持って仕事に打ち込める職場環境を提供することが、ディズニーのブランド力を高める前提条件なのである。
ディズニーブランドの商品は、世界中で人気があるが日本ほどではない。ディズニーブランドは「低級品ではないこと」「安心」「楽しさ」「感動」「ほかの人との違い」を約束する。ディズニー商品の中には、粗利益率が40%を超える商品はざらにある。抜群のブランド力がディズニーパークの経営力を引き上げ、ほかの企業に圧倒的な差をつけるビジネスモデル(儲かる仕組み)になっている。 -
◎著者プロフィール
1940年神戸市生まれ。一橋大学商学部卒業、同年朝日新聞社入社。東京経済部、『週刊朝日』編集部等を経て、論説委員として社説・コラムを執筆。97年朝日新聞社退社。同年4月から2005年3月まで宮城大学事業構想学部教授。2006年4月から11年3月まで流通経済大学スポーツ健康科学部教授。主な著書に『円・ドル・マルク』(教育社、1976年)、『遊びの経済学』(PHP研究所、1986年、のちに朝日文庫に収録)などがある。