「KK2コンピテンシー」とは

KK2コンピテンシーの概要解説動画(3分01秒)

動画は日本語字幕付きでもご覧いただけます。動画内にある[cc]をクリックして「日本語」を選択すると日本語字幕が出ます。


解説:KK2グローバルキャリアカウンセラー 伊庭野基明

1974年慶應義塾大学卒。日本IBMを経て、ノースウエスタン大学院ビジネススクールでMBA取得。その後リクルートで本社取締役、米国法人社長など17年間勤務、一般財団法人高度映像情報センター(AVCC)理事、現在企業役員、企業契約アドバイザーなど。

1.キャリアデザインについてのキーワード

筏くだりと山登り
大学生や社会人成り立ての若者が、目指す目標を決められない事はよくある事です。その場合は、あまり悩まずに、流れに身を任せて、日々の仕事に集中する中での経験とか、人との出会い、時には出会う失敗から学んで行くことで、あたかも筏で急流を下る中で、自分を高めて行くというキャリアの積み方があります。しかし、それも35歳位までで、その後は目標を決めた山登りです。KK2では筏下りステージをアソシエイト、山登りステージをリーダー、そしてそれ以後のステージをシニアと名付けて分類しています。(参照:「キャリアデザイン入門」 大久保幸夫著)

ドリフト理論
金井先生のキャリアに関する「節目と仕事期間」という話です。誰でもキャリアについて、常時真剣に考えているわけではないし、そんな事をしたら疲れてしまいます。しかし、就職活動時期や一仕事の終わりの節目では、自分にキャリアを深く考えましょう、そして決まったら、その数年間は流れに身を任す(ドリフト)ようにその仕事に打ち込みましょうと言う事です。要はメリハリをつけてキャリアを生きていこうという事だと理解しています。(参照:「働く人たちのためのキャリアデザイン」 金井壽宏著)

ロールモデル
どのようなキャリアを目指すかを考える時に、自分自身を出発点で考えるのは結構難しいものです。それより、社会で活躍する人々、身近で接する人々の中から、「こんな人になりたい」というキャリアロールモデルを探したり、思い浮かべたりする事が大事です。映像や書籍による学習もよいですが、一番よいのは、直接本人の話を聞くことです。エキスパート・スタジオはライブですし、参加できない方々にはインターネットでの参加もできます。また、オンデマンドの学習教材があります。ぜひ活用しましょう。

三つのや
エキスパート・スタジオへ登場されているエキスパートは、色々な分野の方々ですが、達成意欲、主体性、行動力などのキーコンピテンシーが、ほぼ共通して観察されます。キャリア理論の基礎には、シャイン博士の「キャリアモデル」があり、それらはエキスパート達のキャリアの根本をなすものです。「やりたいこと」「やるべきこと」「やれること」、頭文字を取って、「三つのや」と言います。

2.KK2のコンピテンシー分類

コンピテンシーについては、70年代のマクレランドの研究開始以後多くの研究とまとめが行われてきていて、分類の仕方もそれぞれ簿妙に異なっています。KK2では「しごと力カテゴリ」で9個のコンピテンシーに分類整理しており、それぞれコンピテンシー・チェックというオンデマンド教材を提供し、関連するプログラムコンテンツもその分類タグをつけて便利に学習できるようになっています。
ここでは、いくつかのコンピテンシー研究とKK2のコンピテンシー項目の関係を見てみたいと思います。既に書きましたように、マクレランドから始まる研究が源流ですが、その後ウッド・ペインによる「最も一般的な12のコンピテンシー」というものがあり、日本では経産省の「社会人基礎力」という12項目の分類があります。これは「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」に3大分類されています。一方、KK2は、「Feel」「Think」「Act」の3大分類としており、「Feel」は自己認識力、感情マネジメント力、共感力、コミュニケーション力の4要素、「Think」は状況把握力、原因究明力、選択決定力、リスク分析力の4要素、そして「Act」は実行力として、全部で9項目をあげています。それらを基礎コンピテンシーとして、KK2のサイトでは、「知識」を4項目、「スキル」を4項目補足しています。
マクレランドの後継者とも言えるSpencer & Spencer(SS)6群(20要素)分類は別の章で説明します。尚、アメリカのビジネス界では、Robert Wood& Tim Payne (WP)の12項目も広く活用されていますが、それは、1.コミュニケーション、2.達成・成果指向、3.顧客中心、4.チームワーク、5.リーダーシップ、6.計画と組織立て、7.業務・ビジネス意識、8.柔軟性・順応性、9.育成、10.問題解決 11.分析的指向、12.関係構築力です。

さて、日本では、経済産業省が若者の就業力を「社会人基礎力」として整理し、現在大学現場でも広く使われていますが、これらは、仕事の現場で要求される力という観点でのまとめとも言えます。「前に踏み出す力(アクション)」で、主体性、働きかけ力、実行力の3要素、「考え抜く力(シンキング)」で、課題発見力、計画力、創造力の3要素、「チームで働く力(チームワーク)」で、発信力、傾聴力、柔軟性、状況把握力、規律力、ストレスコントロール力の6要素が定義されています。他の分類と異なるのは、創造力という要素を独立させている事、コミュニケーション力を「発信力」「傾聴力」と細分していることです。 実行力、達成意欲、主体性などについては、KK2は「実行力」、社会人基礎力は「アクション」「主体性」「働きかけ力」「実行力」という要素名で表現していますが、アメリカのスペンサー等やウッド等は、「達成重視」「目標達成意欲」「イニシアティブ」などと表現しています。ちょっとニュアンスが違う気がするかもしれませんが、アメリカの場合は「行動すること」は前提としてあり、それをどのように達成するかに重きが置かれているように見えます。日本では、それ以前の受動的でなく、能動的、主体的な要素が要求されているのかもしれません。
この項では、「KK2しごと力カテゴリ」での9つのコンピテンシー要素についてそれぞれ紹介し、他の分類との関係について触れていきます。

 1.自己認識力 【KK2しごと力カテゴリ コンピテンシー】
まずは「自己認識力」です。自己認識力は、自分におきている複数の感情、またはそれを引き起こしている原因を認識できる力です。自分の感情、気持ちを理解することにより、マイナスな感情を方向転換(マネジメント)することができます。また、それをきっかけに相手の気持ちを想像することができるため、相手を思いやることができるようになります。KK2のこの要素は、SS、WP、社会人基礎力などの分類での「セルフ・コントロール」「柔軟性」などの要素が組み合わさったものです。

 2.感情マネジメント力 【KK2しごと力カテゴリ コンピテンシー】
「感情マネジメント力」は、自分におきている感情を理解した上で、建設的で冷静な判断・選択をすることができる力です。また、くじけそうな時に自分を奮い立たせることができる考え方(楽観主義)ができる力、感情を相手にぶつけて怒ったり、逆に自分の中に抑制させ落ち込んだりするのではなく、自分の感情を理解することにより、冷静で適切な対応を取ることができます。前号の「自己認識力」に他の分類での「他者への働きかけ」「関係構築」などが加わっています。

 3.共感力 【KK2しごと力カテゴリ コンピテンシー】
「共感力」は、自分の視点ではなく、相手の視点に立って、相手の考え方や感情を理解することができる力です。相手の感情を理解するために、非言語的理解をすることができる力、相手を大切にするという気持ちが根底にあると、信頼が得られやすく、オープンに理解し合うことが容易になります。人に自分を理解してもらい、思いやりのある態度をしめしてもらったうれしさは誰もが経験しています。共感力は人間関係のかぎともいえます。「共感力」は他の分類では「対人関係力」「関係構築力」「対人理解力」と表現されることもあります。

 4.コミュニケーション力 【KK2しごと力カテゴリ コンピテンシー】
「コミュニケーション力」は、人の多様な意見、価値観を認めることができる力です。相手の感情を把握し、自分の伝えたいことを正確に伝えられる話の構成を組み立てることができる力でもあります。コミュニケーションは、相手の話を聞く部分と、自分の話をしっかりと表明する部分から成り立ちます。よりよりコミュニケーションのために、相手に共感することがひとつの重要な道具とすると、率直に自分の考えと気持ちを相手に伝えることは、もうひとつの重要な道具ともいえます。「コミュニケーション力」は他の分類でも同様に提示されていますが、「発言力」「傾聴力」と分ける場合や、「対人理解力」の中に含まれる場合もあります。

 5.状況把握力 【KK2しごと力カテゴリ コンピテンシー】
「状況把握力」は、先入観や不確かな情報にとらわれず、状況を正しく認識できる力です。事実を得るためにできるだけ正確な情報を入手し、その情報をもとに課題を整理することができる力でもあります。問題解決の第一歩は、何が問題で、何が課題なのかを明確に確認すること、つまり問題に関する状況把握が重要です。できるだけ正確な情報を収集できる方法を検討し、問題を更正する要素を明確にすることです。KK2のこの「状況把握力」は、他の分類では、「情報探求性」「課題発見力」「分析力」などと表現されています。

 6.原因究明力 【KK2しごと力カテゴリ コンピテンシー】
「原究明力」は、問題の内容を整理分析し原因を絞り込むことができる力です。また、その原因と想定されるものの裏づけをとることができる力。問題が発生した時、なぜその問題が起きたのかという原因を突き止めなければ、解決の糸口は見つかりません。専門的な知識だけではなく、どこに問題の原因があるのかを突き止める指向の手順を理解し、次のステップである再発防止の仕組みづくりも必要です。KK2のこの「原因究明力」は、他の分類での、「分析力」、「情報探求力」「対組織力」「対人能力」などを組み合わせた力として表現されています。

 7.選択決定力 【KK2しごと力カテゴリ コンピテンシー】
「選択決定力」は、自分に望ましい状況を明確にし、そこに到達するための適切な手段を考えることができる力です。十分な情報を入手し、メリット、デメリットを整理する力、選択決定とは、自分にとって望ましい目的、状態を思い描いて、そこに到達する手段に中で最も効果的で、犠牲が少ないものはなにかを考えることです。それぞれの選択を正しく行う事ができるかどうかは、あなたの生活や成果などに大きく影響します。この「選択決定力」という表現は、KK2で特に取り上げられているもので、他の分類では単独では表現されていません。マネジメント群の中での「リーダーシップ」、「計画性」、「組織立て」、達成意欲群の中の「イニシアティブ」などに含まれます。

 8.リスク分析力 【KK2しごと力カテゴリ コンピテンシー】
「リスク分析力」は、想定される具体的なリスクを整理することができる力です。またリスクへの対策、およびリスクが発生した場合の対策を明確にすることができる力で、計画を立てたがうまくいかなかったということは誰にでもありますが、理由としてリスクについて検討していなかったということがあげられます。リスクとは、計画の実現が不可能になったり、計画を大きく変更せざるを得なくなるような障害のことをいいます。このKK2の「リスク分析力」は他の分類では独立しては表現されていませんが、「分析力」「問題解決力」「計画性」、「正確性への関心」などが複合されたものです。

 9.実行力 【KK2しごと力カテゴリ コンピテンシー】
「実行力」は、最終到達目標を明確にすることができる力です。目標達成に必要な条件、具体的な行動計画を明確にすることができる力で、リスクへの対策を準備することができる力です。行動・実行は、感情ややる気といった内側からの情熱はもちろん重要ですが、実現するためのステップをしっかりと踏まなければ、その可能性は低くなってしまいます。実行することは、最終アウトプットでもあり人間の活動には大変重要なものです。KK2のこの「実行力」は意欲、計画、行動などの総合的な表現になっています。他の分類での「働きかけ力」「インパクトと影響力」、「達成重視」などの要素もこれに関係しています。

3.コンピテンシー研究とKK2コンピテンシーの関連

コンピテンシー研究についてと、KK2のコンピテンシーとの関連を説明します。
(参照:「コンピテンシー・マネジメントの展開」 ライル・スペンサー&シグネ・スペンサー)

(1) コンピテンシー研究の歴史と基礎

コンピテンシー研究の源流 - マクレランド教授の弟子たちの仕事 -
ハーバード大学心理学教授のデイビッド・マクレランドによって1970年代に提唱された「コンピテンス」の概念は、彼の弟子にあたるライル・スペンサー、リチャード・ボヤツィス、ダニエル・ゴールマン等によって研究が継承され、人事の現場などで実際に利用可能な形に進んできました。掲題のコンピテンシー研究の教科書を元に、彼らの業績のよるコンピテンシー研究の概要について紹介をしていきます。

コンピテンシー概念の土台  - 学びと努力で成長できる -
マクレランド教授によって始まったコンピテンシー研究は、行動結果面接(BEI)という方法で、好業績者と平均的業績者の行動特性の差を整理するという方法で進みました。結果は20個に分類されており、今後順次紹介して行きますが、その前に「人の能力」という基本的な部分についてのスタンスに触れておきます。それは生得性と後天性にも関係しますが、人の能力についての、現在の考え方の多くは、生まれながら持っているものと、生後獲得してゆくものとの両者の相乗効果という事になっています。マクレランドにはじまる研究も、コンピテンシーは、元来備わっている部分もあるが、ほとんどの要素が「個人の努力」で向上させることができるものとの考え方にたっています。

マクレランドの指摘 - 成果をもたらす行動とは何か -
1973年の論文で、マクレランド教授が指摘したのは、旧来の学問的適性テストや知識内容テスト、学校の成績や資格証明では、1)職務上での業績や人生における成功は予測できない。2)マイノリティー、社会的経済的低層者に不利をもたらす事が多い、という点でした。これを元に、実際の高業績者の行動特性の研究から、コンピテンシー研究へ進みます。日本でも学業成績や大学名だけでの採用方式からは多少変わっては来ていますが、まだ人材をスキル、コンピテンシーで評価したり、開発したりという考えが広まっているとは言えません。

行動結果面接法(BEI) - 測定手法 -
コンピテンシー研究の祖となるマクレランド教授は、米国務省から委託された外交職員採用基準策定をするにあたり、当初は選択回答方式を考えました。しかし、実際の仕事や人生では、そういう型にはまった状況だけではないという事実に注目し、現行職員を個別に面接し、実際に起こった状況、そしてそれにどのように対応したのかという「生きた行動特性」をインタビューして蓄積し、そのデータを分析、共通した行動特性として整理しました。KK2のエキスパート・スタジオでも、エキスパートの「生きた行動」のインタビューを中心に構成しており、その行動特性について収録コンテンツで学べます。

行動科学とコンピテンシー - 動因も変える事ができるか -
コンピテンシーとは、高業績者の客観的に観察できる行動特性です。成功者、高業績者の行動には、ある共通性が見られ、簡単に言えば、それをまねすれば、高業績の達成につながるというものです。行動科学では、「人の心は読めない」という考えが基礎にありますが、少なくとも表象する「行動」だけでも変えたり、変わったりしようと提唱しています。コンピテンシー研究では、それを更に進めて、心の奥底にある「動因」までも訓練すれば変えられると言います。

コンピテンシーの氷山モデル - 見える行動と見えない行動 -
コンピテンシー特性を氷山モデルといわれるもので説明される事があります。氷山が波に浮いていて、水面下の一番下に「動因」、下から2番目に「特性、性格」があり、その上に「価値観、自己イメージ」があって、波の上には、「知識、スキル」があるというモデルです。水面より上は外部から観察できる行動ですが、その行動を起こすさまざまな要因が人に内在している事を示しています。この「氷山モデル」によると、優れた業績を上げる人は、心の奥底から外に向かって、1)その仕事を達成するための強い動機を持ち、2)その仕事に適した性格をもち、3)その仕事を達成するため必要な信念、価値観を持ち、4)その仕事に必要な知識を持ち、5)その仕事に必要なスキルを身につけている人と説明されています。

(2) コンピテンシーの定義について

根源的特性
コンピテンシー定義での第一の要素は「根源的特性」というものです。コンピテンシーは人材に備わる根源的な特性であり、「さまざまな状況を超えて、かなり長期間にわたり、一貫性をもって示される行動や思考の方法」、あるいは「個人の性格のかなり深い、永続的な部分を占め、さらにかなり広い範囲の状況や職務タスクにおける行動を予見できる」と示されています。コンピテンシー特性は「動因」「特性」「自己イメージ」「知識」「スキル」の5つのタイプに分類されています。

原因結果の関係
コンピテンシーの定義の三要素(根源的、原因的、基準に照らし)のうちの「根源的特性」の5つのレベルについて前稿で紹介しましたが、その二は「原因としてかかわる」という要素です。コンピテンシーモデルでは、動因、特性、自己イメージという深層レベルが「行動」→「成果」という結果をもたらすという、原因・結果フローの構造が見て取れます。更に言うと、コンピテンシーには必ず「意図」が含まれており、観察される、ある「知識」、「スキル」のコンピテンシーには必ず深層の3レベルのコンピテンシーが包含されています。

評価基準との比較
コンピテンシーの定義の三要素(根源的、原因的、基準に照らし)の三番目は「基準に照らして」というものです。これはコンピテンシーという事を語る時には、必ず何かしらの現実的意味を持った目的、業績を念頭に置いている。コンピテンシーとは元々、人材を定量的に評価するというある意味大胆な試みであり、採用、評価の場面での活用に役立てる目的で研究が進んだものです。ちなみに、コンピテンシーでの評価分類では、例として「必要最低限のコンピテンシー」「卓越を峻別するコンピテンシー」というような言い方をしています。

(3) コンピテンシー特性のタイプについて

[1] 動因
コンピテンシーの「根源的特性」は5つのタイプに分類されていますが、その根源中の根源と示されているのが、この「動因」です。人が行動を起こす際に常に考慮し、願望する、さまざまな要因です。この「動因」はある種のアクションやゴールに対して、個人の行動を駆り立て、選択させ、又逆にその他の行動やゴールを回避するように導きます。行動には意識、無意識という状況もありますが、どちらかといえば、無意識での行動特性とも言えます。

[2] 特性
コンピテンシーの特性の最深部には「動因」があると前回書きましたが、その次レベルに位置づけられているのが、「特性」です。わかり易く書けば「身体的特徴」、あるいはさまざまな状況や情報に対する一貫した反応と言えます。高い視力はパイロットに必要だと言うとわかり易いでしょう。別の言い方をすれば、「動因」は心情、思想というソフト的な基礎、「特性」は特徴、性格のようなハード的構造と言ってもよいかもしれません。

[3] 自己イメージ
コンピテンシー特性の「動因」「特性」に続く第三のタイプ(レベル)は「自己イメージ」です。個人の態度、価値観、自画像と言った表現もされます。つまり、自分で自分をどのように位置づけ、方向付けているかという特性レベルです。時により、自己イメージでは経営者を目指すが、動因、特性という深層レベルでの特性はそれに適さないという事もおこります。「動因」「特性」とは違い、自己イメージは時間をかけて自分で変えて行くことも可能でしょう。

[4] 知識
コンピテンシー特性の動因、特性、自己イメージの三段階について説明してきました。この3つのコンピテンシーは目に見えず、より深いところに位置しています。次の特性タイプは、「知識」のレベルです。知識は医者、弁護士などの専門的な職業で顕著に見ることができます。知識はある成果を挙げるための必要条件ではありますが、条件とはなりません。知識はその人材が何をできるかを明らかにするけれども、実際に何をするかを示してはくれません。知識は学ぶことによって得られますが、知識は学び続けなければ陳腐化します。

[5] スキル
コンピテンシー特性の最後のタイプは「スキル」です。身体的、心理的能力という事もできます。第二レベルの「特性」はどちらかといえば、視力とか身長、運動神経などの生得的な身体、心理的特徴であるのに対し、「スキル」は後天的に習得された能力と言ってよいでしょう。「スキル」は「知識」と共に、どちらかと言うと、潜在的な水面下にある「動因」「特性」「自己イメージ」の3つと比較して、表象的に観察可能なレベルに属します。

(4) コンピテンシーディクショナリー(辞書)について

コンピテンシー要素の整理は、マクレランドの弟子達によってそれぞれ進みますが、ここでは参考の本著で20個に分類されたものを紹介して行きます。これは「コンピテンシーディクショナリー(辞書)」と呼ばれ、まずその基本を支える意図により、大きく6つの「群(クラスター)」に分けられています。それは、1)達成とアクション 2)支援と人材サービス 3)インパクトと影響力 4)マネジメント・コンピテンシー 5)認知コンピテンシー 6)個人の効果性、となっています。
クラスター① - 達成とアクション -
スペンサー&スペンサーは、20のコンピテンシー要素を6つのクラスター(群)にまとめましたが、第一のクラスターは「達成とアクション(Achievement and Action)」です。これは「達成重視(Achievement Orientation: ACH )」「秩序、クオリティー(Concern for Order, Quality, and Accuracy: CO)」、「イニシアティブ(Initiative: INT)」、「情報探求(Information Seeking: INFO)」の4つの要素を含んでいて、主に達成意欲、正確性、情報探求力などの行動の根源となるもので、KK2しごと力コンピテンシー要素の中では「Action(実行力)」に相当します。

クラスター② - 支援と人材サービス -
6つのクラスターのうちの二つ目は、「支援と人材サービス(Helping and Human Service)」です。これは「対人関係理解(Interpersonal Understanding: IU)」と「顧客サービス重視(Customer Service Orientation: CSO)」の二つの要素からなっています。対人関係という事で、他の人たちのニーズに応えようとする努力であり、他のクラスター(群)と比べて、パワーに対するニーズと愛情に対するニーズが明確に示されます。KK2しごと力コンピテンシーでは「Feel(共感力、コミュニケーション能力)」に相当します。

クラスター③ - インパクトと影響力 -
スペンサー&スペンサーの三つ目のコンピテンシークラスター(群)は「インパクトと影響力(The Impact and Influence Cluster)」です。ある個人の他の人たちに対する影響に関する根本的関心やパワーに対する欲求であり、組織または他の人たち備わる長所を認めるところから生み出されます。要素は三つあり、「インパクトと影響力(Impact and Influence: IMP)」、「組織の理解(Organization Awareness: OA)」、「関係の構築(Relationship Building: RB)」です。KK2しごと力コンピテンシーの「Action(実行力)」を支える要素であり、経産省の社会人基礎力では「働きかけ力」に相当します。

クラスター④ - マネジメント・コンピテンシー -
クラスター(群)分類での四つ目は「マネジメント・コンピテンシー(Managerial)」で、これはインパクトと影響力コンピテンシーの特別なサブセットであり、人材開発、リーダーシップ、チームワークを生み出すという意図が伴います。四つの要素があり、「ほかの人たちの開発(Developing Others: DEV)」、「指揮命令-自己表現力と地位に伴うパワーの活用(Directiveness - Assertiveness and Use of Positional Power: DIR)」、「チームワークと協調(Teamwork and Cooperation: TW)」、「チーム・リーダーシップ(Team Leadership: TL)」です。これらは、KK2コンピテンシー、社会人基礎力の各コンピテンシーを総合して特別な効果を他の人や組織に与えるという役割を果たします。

クラスター⑤ - 認知コンピテンシー - 
五つ目のクラスター(群)は「認知コンピテンシー(Cognitive)」。です。三つの要素からなり、「分析的思考(Analytical Thinking: AT)」、「概念化思考(Conceptual Thinking: CT)」、「技術的/専門的/マネジメント専門能力(Technical/ Professional/Managerial Expertise: EXP)です。これらはイニシアティブの知的能力発揮というように解釈でき、その個人が状況、タスク、問題、機会、あるいは知識の内容を理解することに努力する側面を指します。KK2しごと力コンピテンシーの「Think(問題解決力」では状況把握力、原因究明力、選択決定力、リスク分析力の要素が提出されていますが、これらを含め認知コンピテンシーは多くのコンピテンシーの基礎を支えています。

クラスター⑥ - 個人の効果性 -
スペンサー&スペンサーのコンピテンシークラスターの六つ目は「個人の効果性(Personal Effectiveness)」です。四つの要素からなっており、「セルフ・コントロール(Self-Control: SCT)」、「自己確信(Self-Confidence: SCF)」、「柔軟性(Flexibility: FLX)」、「組織へのコミットメント(Organizational Commitment: OC)」です。これらは、個人そのものの特性・スキル・成熟度であり、人間関係力そのものと考えてもよく、プレッシャーや困難に立ち向かう時のその個人の業績そのものを左右する。KK2しごと力コンピテンシーでは、「Feel(人間関係力)の分類に相当し、自己認識力、感情マネジメント力、共感力、コミュニケーション力と関係する。

(5) コンピテンシーディクショナリー(辞書)の20要素について

KK2でのしごと力コンピテンシーの9項目とKK2以外のコンピテンシーとの若干の比較は後の稿で説明をしますが、今までにスペンサー等のコンピテンシー研究のクラスター(群)の説明を、「コンピテンシー・マネジメントの展開(Competence At Work)」という著述からも紹介してきましたので、この6つのクラスターを構成する20個のコンピテンシー要素それぞれについての内容を紹介して行きます。この項でも、ところどころ、これらの要素とKK2のコンピテンシーとの関係を可能な範囲で説明していきます。
[1] 達成重視(Achievement Orientation: ACH )
「達成とアクション(Achievement and Action)」というクラスターには四つの要素があり、一番目は「達成重視(Achievement Orientation: ACH )」です。このACHは20ある要素の中では、最上位に位置するもので、INT(イニシアティブ)、CSO(顧客重視)、CO(秩序指向)など複数の重要な要素を前提においています。高業績を上げるエキスパートは共通して、物事を目標どおりかそれ以上に達成するという強い意思を保持しています。KK2のコンピテンシーでは「実行力」がありますが、行動を進めるという行為の前提には達成意欲がかかせません。ACHという最重要のコンピテンシーは、すぐれた仕事を達成する、あるいは卓越した基準に挑む姿勢を示しています。ここで言う「基準」とは、個人の過去の業績、客観的な業務目標、競合的目標、個人の挑戦的目標、イノベーションなどです。ACHは、「効率重視」、「基準の遵守」、「改善へのフォーカス」、「起業家的行動」、「リソースの最適活用」と言う表現でも使われ、定められた目標を達成しようという強い動機(モティベーション)から発動されます。あるコンピテンシーが発揮されているかを観察するための指標を、その要素の「行動インディケーター」と言いますが、ACHの行動インディケーターとしては、1)マネジメントにより設定された基準を満たすべく仕事をすすめる 2)自分、他人に対してチャレンジングな目標を設定し、その達成に向けて行動する 3)コスト効果性分析による適正な指標に基づき、意思決定し優先度をつける 4)企業家的リスクを解明した上でリスクに挑む、というようなものがあります。
[2] 秩序、クオリティー(Concern for Order, Quality, and Accuracy: CO)
「達成とアクション(Achievement and Action)」というクラスター(群)の四要素の二番目は「秩序、クオリティー(Concern for Order, Quality, and Accuracy: CO)」です。COは「秩序、行為の質(クオリティー)、正確性などへの関心」という意味から成り立っており、AT(分析思考)を前提としています。仕事の実行や達成という行為を正確に秩序ただしく為すという配慮も種々のエキスパートには求められますが、技術職、専門職などの実業において特に必要な場合もあります。KK2のコンピテンシーでの「実行力」にはこのCOと言う要素が含まれています。COには、取り巻く環境における不確実性を減らす基本的な動因が関わっており、モニタリング、曖昧さの除去、不確実性減少への欲求や、わき道にそれないというような行動が含まれます。COの行動インディケーター(指標)としては、1)仕事や情報をモニターし、チェックする 2)役割と機能について明確な定義を求める 3)情報システムを作り、維持する、といったものがあります。SEや経理などの専門的職種では、このCOというコンピテンシーがかなり高く求められます。
[3] イニシアティブ(Initiative: INT)
「達成とアクション(Achievement and Action)」というクラスター(群)の四要素の三番目は「イニシアティブ(Initiative: INT)」です。INTはIU(対人関係理解)、AT(分析思考)、CT(概念思考)を前提とする、中位レベルの重要コンピテンシー要素であり、KK2の「実行力」コンピテンシーの中核的要素と言えます。INTは、CSO(顧客指向)とともに、最上位コンピテンシーであるACH(達成重視)の前提となるもので、行為のドライバーとなってエキスパートの行動を主導します。自律的モティベーション、自発的努力などで他人も巻き込みながら仕事をすすめる事ができます。また、INTは、行動を起こすことに対する強い指向性で、期待されていること以上の事を実行し、成果を出します。一般職位では、アクションへの強い関心、決断力、戦略的な未来指向、機会をつかむ、先取り的に行動するといった形で、マネジメント職位では、問題回避の現時点での行動、将来での機会創造という形で現れます。行動インディケーター(指標)としては、1)粘り強さ 2)障害や反対に対する耐性 3)機会の発見と取り組み 4)職務要件をはるかに越えた達成、などがあります。
[4] 情報探求(Information Seeking: INFO)
「達成とアクション(Achievement and Action)」というクラスター(群)の四要素の四番目は「情報探求(Information Seeking: INFO)」です。INFOは言葉どおりで、情報に注意を払って、認知、収集する力です。他のコンピテンシー要素のほとんどのものの前提としてこのINTは定義されており、レベルは下位に属しますが、どんなエキスパートにも必要な要素と言って間違えありません。KK2では状況把握力、リスク分析力、原因究明力などという要素がありますが、それらの前提にもこのINTが含まれています。INFOは、生来の好奇心や、物事、人間、課題についてもっと知りたいと願う欲求が動因となっており、状況を額面どおりに受けとるに留まらず、更に多くの情報を得ようとします。また、問題の定義、特定、診断のための視点、顧客/マーケティングに対する感受性、深い掘り下げといった行動も特性として上げられます。行動インディケーター(指標)として、1)掘り下げる質問での正確な情報把握 2)将来役立つかもしれない雑多な情報収集 3)個人的に現場に出向いての活動、などがあります。
[5] 対人関係理解(Interpersonal Understanding: IU)
二つ目のクラスター(群)である「支援と人材サービス(Helping and Human Service)」には二つの要素があり、一番目は「対人関係理解(Interpersonal Understanding: IU)」です。IUはINT(イニシアティブ)、CSO(顧客重視)などの高レベル要素を初め、IMP(インパクト)、Managerial(マネジメント)などのクラスターの構成要素の前提となる重要な要素です。KK2では「コミュニケーション力」「共感力」などと表現されていますが、これらもIU(対人関係理解)が基礎にあります。IUは、に営業担当者などの顧客との接点が多いエキスパートや、上司部下関係などでの管理職でも必須のスキルで、ほかの人たちを理解したいという願望に基づいていて、その人たちの言葉に表されない考え方、感性、懸念を正確に聴き取り、理解する能力です。異文化感受性は、IUの特別なケースと言えます。IUは、「共感性」、「傾聴」、「ほかの人たちに対する感受性」、「ほかの人たちへの感情の理解」、「診断のための理解」といった言葉でも表現されます。KK2のコミュニケーション力には、IUの相手の事を理解する事に加えて、自分の伝えたいことを相手に伝えるという双方向性が含まれています。行動インディケーターとしては、1)ほかの人たちのムードや感情を認識する 2)ほかの人たちの反応を予測し、それに準備するために、傾聴や観察を通じて理解を深める 3)ほかの人たちの態度、興味、ニーズ、考え方を理解する 4)ほかの人たちが長い間に身につけた態度、行動パターン、問題点の根源を理解する、といったようなかなり高度で緻密な対人観察能力を含むと言えます。
[6] 顧客サービス重視(Customer Service Orientation: CSO)
二つ目のクラスター(群)である「支援と人材サービス(Helping and Human Service)」には二つの要素があり、二番目の要素は「顧客サービス重視(Customer Service Orientation: CSO)」です。CSOはINT(イニシアティブ)、EXP(専門スキル)、OA(組織理解)などを前提とする、ACH(達成重視)と並ぶ上位のコンピテンシー要素で、AT(分析思考)、CT(概念思考)などの要素も直接前提としている。CSOは直接顧客に接する営業職に必須ですが、スタッフ部門等、社内他部門との関係が多い部門でのエキスパートにも、CSOは必要とされます。CSOは、ほかの人たちのニーズに応え、支援し、サービスを提供したいという願望です。顧客やクライアントのニーズを発見し、満足させる努力に専念したり、ほかの人たちを助け、支援するために行動を起こすことに力点をおきます。クライアントのニーズにフォーカスする、クライアントとパートナーを組む、エンドユーザーを重視する、患者の満足への関心を持つといったものもCSOの行動です。CSOはその動機の強さや、示される努力、イニシアティブの大きさによってその程度が測られます。行動インディケーター(指標)として、 1)クライアントの、単に言葉で表現されたレベルを超えた根本的なニーズをつかみ、製品やサービス開発へ反映し、提供する 2)顧客サービスでの諸問題を責任を持って迅速に、前向きに対応する 3)クライアントの問題と機会、実行について自分自身の意見を持ち、長期的視野を持って、信頼される助言者として行動する、といった行動があげられます。
[7] インパクトと影響力(Impact and Influence: IMP)
三つ目のクラスター(群)の「インパクトと影響力(The Impact and Influence Cluster)」には三つの要素があり、初めの要素は「インパクトと影響力(Impact and Influence: IMP)」です。IMPはこのクラスターの他の二要素である、OA(組織理解)とINT(イニシアティブ)を前提にしていて、RB(関係構築)とは相互に前提とし合う関係にあり、このクラスターの中核の要素となっています。また、IMPはTW(チームワーク)、TL(リーダーシップ)というマネジメント群の要素の前提となっています。IMPは相手に強い影響を与えるという行為の要素で、営業、管理職などの対人関係力にも大きな要素となっています。IMPは、その人の考え方を指示してくれるように、ほかの人たちを説得し、信服させ、印象付ける意思であり、彼らに特定のインパクトを与える願望です。そして、ほかの人たちがとって欲しいと、その人が願うアクションのコースや、印象づけたい具体的なポイントを備えています。「戦略的インフルエンス」、「インプレッションマネジメント」、「ショーマンシップ」、「的を絞った説得」という表現もされます。KK2の「実行力」の中にはこのIMPが含まれています。行動インディケーターとしては、1)その人の行動、あるいは人々がその人に対して抱く印象からの効果を読み取る 2)データ、事実、数字、視聴覚、デモを多用する 3)政治的な連帯、アイデアに対する舞台裏でのサポート体制を築く 4)目指す効果を得るために、意図的に情報を使う 5)「グループプロセススキル」を活用するなどがあります。KK2の「実行力」にはこのIMPが含まれています。
[8] 組織の理解(Organization Awareness: OA)
三つ目のクラスター(群)の「インパクトと影響力(The Impact and Influence Cluster)」には三つの要素があり、二番目の要素は「組織の理解(Organization Awareness: OA)」です。OAはこのクラスターの他の二要素であるRB(関係構築)を前提として、IMP(インパクト)の前提となっています。又、INT(イニシアティブ)とIU(対人関係理解)を前提としており、自分の属する組織、あるいは顧客などの組織がどのようになっていて、課題が何処にあるかなどをよく捉える事ができるというスキルです。KK2のコンピテンシーの「状況把握力」の中にはこの要素が含まれています。OAは、組織のパワー関係を理解する能力で、真の決定者とそれに影響を及ぼす者を見分けます。OAは又「組織を操る」、「人をまとめる」、「顧客組織がわかる」、「指示系統がわかっている」、「政治的目先がきく」などとも言われます。行動インディケーターとして、1)組織内のインフォーマルな構造を理解する 2)組織に内在する不文律のような制約を認識する 3)組織に影響を及ぼしている、表にでない問題、機会、政治的な動きを理解し、対応する。KK2では「原因究明力」、「リスク分析力」などの要素にOAは含まれていると考えています。
[9] 関係の構築(Relationship Building: RB)
三つ目のクラスター(群)の「インパクトと影響力(The Impact and Influence Cluster)」には三つの要素があり、三番目の要素は「関係の構築(Relationship Building: RB)」です。RBはOA(組織の理解)の前提となり、IMP(インパクト)と相互に前提関係にあります。又INT(イニシアティブ)を前提としています。RBは相手に影響を与えながら、自他の相互理解を元に、関係を築きあげるという重層的なコンピテンシーを構成しています。KK2コンピテンシーでは「共感力」の中にこのRBの要素が含まれています。RBは、人々との良好な関係を構築と維持をする力ですが、その人々は、現在だけでなく将来にわたる職務に関する目標達成に貢献する人々です。RBは「ネットワーキング力」、「リソースの活用」、「コンタクト先開拓」、「個人的コンタクト」、「顧客関係への関心」、「ラポール(相互信頼)を築くスキル」などとも言われます。行動インディケーターとして、1)ラポールを築く事に努力しているか、苦も無くラポールを築く 2)相互理解構築の為に、個人的情報をシェアする 3)多くの人々とネットワークを築くなどです。KK2の「共感力」、「コミュニケーション力」はこの要素が基礎として含まれています。
[10] ほかの人たちの開発(Developing Others: DEV)
四つ目のクラスター(群)「マネジメント・コンピテンシー(Managerial)」の四つの要素のうちの初めの要素は「ほかの人たちの開発(Developing Others: DEV)」です。DEVは人材育成に携わる人には必須のコンピテンシーで、特に管理者など組織で上位に位置する人に必要なものです。DEVはINT(イニシアティブ)、CO(秩序指向)、IU(対人関係)などのコンピテンシーを前提としていて、最上位として独立しています。KK2等、他のコンピテンシー分類での「人間関係力」に関する項目に一部該当します。DEVは、他者(たち)を教育し、開発を促す純粋な意欲で、公式な役割でなく、開発の意欲と効果の中に宿ることもあります。ただし、義務的な教育プログラムへの送り出しや、既に決定している昇進などには当てはまりません。教育と訓練、部下の成長と開発を促すというような行動として現れます。KK2のFeel, Think, Actの3分野では、Feel=人間関係力の分類に入ります。DEVの行動インディケーターとしては、他者(たち)の学習意欲と可能性について、前向きな期待と確信を持つ。理由と根拠を示しつつ、方向付けやデモンストレーションを行う。個人の特性でなく行動についての警告的FBを行い、業績への前向きな期待を示して助言する。訓練と開発のためのニーズの発見と、それに応える新しいプログラムの開発と実行。他者の能力を開発することを目的として、職務や職責を委譲することなどがあげられています。
[11] 指揮命令-自己表現力と地位に伴うパワーの活用(Directiveness - Assertiveness and Use of Positional Power: DIR)
四つ目のクラスター(群)「マネジメント・コンピテンシー(Managerial)」の四つの要素のうちの二番目の要素は「指揮命令-自己表現力と地位に伴うパワーの活用(Directiveness - Assertiveness and Use of Positional Power: DIR)」です。このDIRはINT(イニシアティブ)とCO(秩序指向)を前提としていて、最上位の要素として独立しています。リーダー、管理者などが自分の役割、地位の力を最大限活かして、自分の組織、相手の組織にたいしての指導力を的確に表現し、指揮できるスキルの事を指します。DIRは、ある個人がその願望(何をすべきか)に他者が従うことを促す意思が含まれているが、説得し、納得させる行動は「インパクトと影響力」のコンピテンシーとして表現される。DIRを前向きな形で発揮するために、個人やその個人の地位に備わるパワーを効果的、適切に活かします。決断力、パワーの活用、積極的影響力の活用、指揮をとる、クオリティーの基準の遵守にまい進する、クラス内のコントロールと規律と言ったこともDIRの表現です。DIRの行動インディケーターとしては、業績の問題に関して他者(たち)とオープンに、直接的に議論する。一貫した基準を設定し、それを満たすべく指令し、それに従うように確固として宣言する。理不尽な要求には断固NOを言い、且つ他者に対して制限を設けます。又、詳細な指示を与え、効果的にタスクを割り付け、自分自身がさらに優先度の高い職務に専念できるようにします。
[12] チームワークと協調(Teamwork and Cooperation: TW)
四つ目のクラスター(群)「マネジメント・コンピテンシー(Managerial)」の四つの要素のうちの三番目の要素は「チームワークと協調(Teamwork and Cooperation: TW)」です。TWはIMP(インパクト)、OA(組織理解)、IU(対人関係理解)を前提としており、個人、組織両者の相互理解の下に、構成員間の協力を得るために影響力を発揮することを言います。KK2のコンピテンシーでは、「共感力」、「コミュニケーション力」などの人間関係力分野に相当します。TWは孤立的に、あるいは競争的に振舞うのではなく、他者と協同しチームの一員となって他のメンバーと助け合い、チームのいかなる役割(リーダー、メンバー)においても発揮できます。グループマネジメント、グループ機能の促進、対立の解消、グループ文化のマネジメント、他者(たち)のモティベーションケアなどもTWコンピテンシーの表現です。KK2の分類では、自己認識力、感情マネジメント力を基礎にした共感力、コミュニケーション力などのFeel分野にあたります。TWの行動インディケーターとしては、具体的な意思決定やプラン作りを支援するためにアイデアや意見を募ったり、プロセスに関してメンバーに情報提供し、知識を最新に保ちます。又、他者に対し前向きの期待感を表明したり、他者の貢献を公の場で認めたりします。他者が実力を備え、重要であると感じられるように励まし、エンパワーします。KK2のコンピテンシーでは、「共感力」、「コミュニケーション力」などの人間関係力分野に相当します。
[13] チーム・リーダーシップ(Team Leadership: TL)
四つ目のクラスター(群)「マネジメント・コンピテンシー(Managerial)」の四つの要素のうちの最後の要素は「チーム・リーダーシップ(Team Leadership: TL)」です。TLはIMP(インパクト)、OA(組織理解)、RB(関係構築)に加えてEXP(専門性)のコンピテンシー要素も前提としています。組織を目標へ導くという専門能力としての要素であり、対象とするグループの規模、目標の高低により責務の範囲が異なります。KK2の分類では、TWコンピテンシーと同様、自己認識力、感情マネジメント力を基礎にした共感力、コミュニケーション力などのFeel分野にあたります。TLはリーダーとしての役割を担う意思、他者をリードしたいという願望からなり、多くの場合、公式的な地位の人たちによって発揮される。指揮を取る、責任を担う、ビジョン、グループのマネジメントとモティベーション、グループに目的意識を築く、部下に心から関心を寄せると言った行動で表現されます。KK2の分類では、TWコンピテンシーと同様、自己認識力、感情マネジメント力を基礎にした共感力、コミュニケーション力などのFeel分野にあたります。TLの行動インディケーターとしては、メンバーに何が起こっているかを知らせ、グループのすべてのメンバーを公平に扱うように個人として努力します。又、チームのやる気と生産性を高めるために複雑な戦略を活用したり、グループの示す現実的なニーズに応えることに努めたりします。KK2の分類では、TWコンピテンシーと同様、自己認識力、感情マネジメント力を基礎にした共感力、コミュニケーション力などのFeel分野にあたります。
[14] 分析的思考(Analytical Thinking: AT)
五つ目のクラスター(群)「認知コンピテンシー(Cognitive)」は三つの要素からなり、その一番目は「分析的思考(Analytical Thinking: AT)」です。ATはINFO(情報探求)のみを前提とした20要素の中では下部のコンピテンシー要素であり、CO(秩序)、INT(イニシアティブ)などの中位の中核コンピテンシーを支えています。つまり、関係する情報に気を配りながら、得られた情報を分析し、必要な行動へとつなげる脳の認知力です。KK2では「THINK」と言う分類に含まれ、行動としては分析力、究明力などにつなげています。ATは、ある状況をさらに細かい部分に分解して理解し、状況に含まれる意味を、段階的に原因を追求する形で追跡します。又、自分自身のために思考する、実践的な知能活用、問題分析、理由づけ、プラニング・スキルと言った表現でも表されます。行動インディケーターとしては、重要度に応じてタスクの間に優先度をつける、複雑なタスクをシステマティックに処理可能な部分に分解する、出来事の潜在的な原因、アクション等を伴う結果を理解するなどがあります。KK2の「状況把握力」「リスク分析力」などの「考える力」の基礎をなします。
[15] 概念化思考(Conceptual Thinking: CT)
五つ目のクラスター(群)「認知コンピテンシー(Cognitive)」は三つの要素からなり、その二番目は「概念化思考(Conceptual Thinking: CT)」です。CTはAT(分析思考)と同様、INFO(情報探求)のみを前提とした下部コンピテンシーで、INT(イニシアティブ)、OC(組織へコミット)などを支える重要なコンピテンシー要素です。又、ACH(達成重視)、CSO(顧客指向)という20要素の中で最も高レベルの二つの要素の直接的な前提ともなっています。AT(分析指向)が情報を整理し分析する要素であるのに対し、CTは物事をマクロ的に概念的に捉えて戦略的な思考へとつなげます。KK2での「状況把握力」の概念的部分と考えて下さい。CTは、各分野をまとめて状況や問題を理解し、おおきな絵姿を描き出す能力で、直接的に関係ないと見られる状況間に、パターンや結合を見出します。又、複雑な状況のなかにキーとなる根本的な過大を発見したりします。CTは、概念の活用、パターン認識、洞察力、クリティカル思考、問題の定義と特定、諸理論を生み出す能力などと表現されることもあります。KK2の分類要素では、THINK分野での「状況把握力」「原因究明力」などと近いちからです。CTの行動インディケーターとしては、問題の状況を理解するために、原則、常識、過去の経験を活かす、現在の状況と過去に起こった事柄の間に重大な差を見つける、過去に学んだ複雑な概念や方法を適切に応用し、調整するといったものがあげられます。KK2の分類要素では、THINK分野での「状況把握力」「原因究明力」などと近いちからです。
[16] 技術的/専門的/マネジメント専門能力(Technical/ Professional/Managerial Expertise: EXP)
五つ目のクラスター(群)「認知コンピテンシー(Cognitive)」は三つの要素からなり、その三番目は「技術的/専門的/マネジメント専門能力(Technical/ Professional/Managerial Expertise: EXP)」です。EXPは、AT(分析思考)、CT(概念思考)、FLX(柔軟性)の三要素を前提とした中下位の要素で、20要素の中での最上位のACH(達成重視)、CSO(顧客指向)の二つの重要なコンピテンシーを支えます。又マネジメント・コンピテンシーのうちのTL(チームリーダーシップ)でも「管理職の専門性」と言う面で必要とされています。EXPは、職務に関する知識の体系をマスターし、その知識を更に発展させ、活用し、他の人たちに伝えて行くモティベーションを備えています。また、法律を理解する、製品知識、専門家・支援者としての知恵、診断のためのスキルといった専門知識だけでなく、学習にむけたコミットメントというような専門家としての態度としても表現されます。KK2では、Feel、Think、Actの3つの大分類と9つのコンピテンシーに加えて、「ナレッジ」という分類で、各種の専門的知識をあげています。行動インディケーターとしては、スキルと知識を最新に保つことに努める、自分の専門知識を越えての探求の継続を通じて好奇心を維持すること、ほかの人たちが技術的問題を解決する際に支援を惜しまない、新しい課題を学ぶためにコースを取ったり、自習を進めたりするといったことがあげられます。
[17] セルフ・コントロール(Self-Control: SCT)
六つ目のクラスター(群)「個人の効果性(Personal Effectiveness)」は四つの要素からなり、最初の要素は「セルフ・コントロール(Self-Control: SCT)」です。SCTは20のコンピテンシー要素の中では、唯一独立した要素として存在しており、他のどの要素の前提でもなく、且つSCTの前提となるコンピテンシー要素も定義されていません。しかし、「個人の効果性」という人間関係力クラスターの中では重要な要素であり、多くのエキスパートのほとんどの行動において必要とされるものです。KK2では、「感情マネジメント力」という要素で、「感情」という心の動きの制御という形で整理しています。SCTは、敵意やストレス下で自分の感情を制御し。キレ行動への誘惑に打ち勝つ能力で、比較的低位の管理職位と個人的専門家職位で観察されます。上位の経営幹部では、観察されない事が多いですが、これは見えないだけで、常態化していると考えられます。言葉としては、スタミナ、強靭さ、ストレス耐性、冷静さなども、このSCTの表現です。行動インディケーターとしては、衝撃的に行動しない、ストレスに満ちた状況でも冷静、建築的に問題に対する、ストレスに対し、適切なはけ口を見出す等があげられます。KK2では、Feel(人間関係力)の分類での、感情マネジメント力がこれにあたります。
[18] 自己確信(Self-Confidence: SCF)
六つ目のクラスター(群)「個人の効果性(Personal Effectiveness)」は四つの要素からなり、二番目の要素は「自己確信(Self-Confidence: SCF)」です。SCFは、OC(組織へのコミット)を支える要素として定義されていますが、このSCFはSCT同様に独立した要素で、これの前提になる要素はなく最下部に属するものです。このSCFは、すべてのコンピテンシーに永続的で効果的な影響を与える重要な要素となっています。KK2には「自己認識力」という要素がありますが、SCFはこの中での「自己確信」という自信・信念に関する部分と考えて下さい。SCFは、タスク達成への自身の能力に対する個人の信念や確信、変化する困難な状況に対して、意思決定や意見形成を行います。失敗に対して建設的に対応する確信を示す行動など、高業績者のほとんどのモデルに含まれています。SCFは、決断力、自尊心の強さ、独立心、すぐれた自己イメージ、責任を取ることを嫌わないというような表現もされます。KK2の分類では、Feel(人間関係力)の、自己認識力の中で、自分の持つスキルを確実に理解し、その範囲で確信するという部分となります。行動インディケーターとしては、他の人たちからの反対に出会っても、きちんと意思決定を行い、実行する、力強い印象や深い仕方で自己を表現する、自分の判断と能力に確信を持って表現する、上司と対立していても自分の立場を明確に表明できる等もあります。失敗から学び、将来の業績を向上させるために自らをしっかり分析する事もします。KK2では、「自己認識力」の中で、自分のキルを確実に理解し、確信するという部分となります。
[19] 柔軟性(Flexibility: FLX)
六つ目のクラスター(群)「個人の効果性(Personal Effectiveness)」は四つの要素からなり、三番目の要素は「柔軟性(Flexibility: FLX)」です。FLXはSCT(自己確信)、CO(秩序指向)、AT(分析思考)、CT(概念思考)以外の要素のほとんどの要素へ直接的に前提を与えています。秩序、分析などの正確性に関するもの以外の行動においては、人間的な余裕ともいえる「柔軟性」が必須という事でしょう。KK2の人間関係力(Feel)分野での「感情マネジメント力」「コミュニケーション力」などは、このFLXを含むものと言えます。FLXは、未知の状況に対してその個人の意思を定めることを助け、さまざまな状況、個人、グループに適応し、効果的に仕事を進める能力です。ある課題に対するさまざまな、相反するものの見方を理解し、評価する能力で、状況からの要求が変化するにつれ対応の方法を変える能力でもあります。そして、自分の組織や職務要件の変化に応じて自らを適応させ、変えてゆく能力であり、適応力、変革能力、知覚的な客観性、客観性を保つ、弾力性という表現もされます。KK2の人間関係力(Feel)分野での「感情マネジメント力」「コミュニケーション力」などは、このFLXを含むものです。行動インディケーターとしては、反対意見の中にも妥当な部分を認識する、仕事の変化にたやすく適応する、組織全体の大きな目標を達成するために、個々の状況に応じて、ルールや手続きを柔軟に適用する、状況合わせて、自らの行動や方法を変化させるといったものがあります。
[20] 組織へのコミットメント(Organizational Commitment: OC)
六つ目のクラスター(群)「個人の効果性(Personal Effectiveness)」は四つの要素からなり、四番目の要素は「組織へのコミットメント(Organizational Commitment: OC)」です。OCもこの「個人の効果性」クラスターの中のほかの要素同様にほぼ独立して存在していますが、SCF(セルフコントロール)とCT(概念思考)の二つを前提にしています。人間関係力を問うこのクラスターにおいて、個人指向を制御しながら、概念的に組織の目標へと自分の行動を律して行く行動特性と言えます。OCは、組織目標の追求、組織ニーズの満足のために、個人の行動を整合する能力と意欲を有し、個人の好みや専門職としてのプライオリティーよりも組織のミッションを優先させます。OC は個人の専門職としてのアイデンティティーと組織の方向との対立が大きいスタッフ職での出現が多く、強力なミッションを備えた組織(軍隊、学校など)での表明が多く見られます。行動インディケーターとしては、同僚たちがそのタスクを完遂することを助ける、組織のニーズに合わせるために、自分の活動やプライオリティーを調整するなどがあります。同様に、組織全体の目標を達成するために、協力することの重要性を理解する、自分の専門職としての興味よりは、組織のニーズを満たすことを優先させるといった行動も、OC のコンピテンシーへつながるインディケーターです。KK2の要素の中では、FLX同様に「感情マネジメント力」がこれと重なる要素と言えます。