クラスター① - 達成とアクション -
スペンサー&スペンサーは、20のコンピテンシー要素を6つのクラスター(群)にまとめましたが、第一のクラスターは「達成とアクション(Achievement and Action)」です。これは「達成重視(Achievement Orientation: ACH )」「秩序、クオリティー(Concern for Order, Quality, and Accuracy: CO)」、「イニシアティブ(Initiative: INT)」、「情報探求(Information Seeking: INFO)」の4つの要素を含んでいて、主に達成意欲、正確性、情報探求力などの行動の根源となるもので、KK2しごと力コンピテンシー要素の中では「Action(実行力)」に相当します。
クラスター② - 支援と人材サービス -
6つのクラスターのうちの二つ目は、「支援と人材サービス(Helping and Human Service)」です。これは「対人関係理解(Interpersonal Understanding: IU)」と「顧客サービス重視(Customer Service Orientation: CSO)」の二つの要素からなっています。対人関係という事で、他の人たちのニーズに応えようとする努力であり、他のクラスター(群)と比べて、パワーに対するニーズと愛情に対するニーズが明確に示されます。KK2しごと力コンピテンシーでは「Feel(共感力、コミュニケーション能力)」に相当します。
クラスター③ - インパクトと影響力 -
スペンサー&スペンサーの三つ目のコンピテンシークラスター(群)は「インパクトと影響力(The Impact and Influence Cluster)」です。ある個人の他の人たちに対する影響に関する根本的関心やパワーに対する欲求であり、組織または他の人たち備わる長所を認めるところから生み出されます。要素は三つあり、「インパクトと影響力(Impact and Influence: IMP)」、「組織の理解(Organization Awareness: OA)」、「関係の構築(Relationship Building: RB)」です。KK2しごと力コンピテンシーの「Action(実行力)」を支える要素であり、経産省の社会人基礎力では「働きかけ力」に相当します。
クラスター④ - マネジメント・コンピテンシー -
クラスター(群)分類での四つ目は「マネジメント・コンピテンシー(Managerial)」で、これはインパクトと影響力コンピテンシーの特別なサブセットであり、人材開発、リーダーシップ、チームワークを生み出すという意図が伴います。四つの要素があり、「ほかの人たちの開発(Developing Others: DEV)」、「指揮命令-自己表現力と地位に伴うパワーの活用(Directiveness - Assertiveness and Use of Positional Power: DIR)」、「チームワークと協調(Teamwork and Cooperation: TW)」、「チーム・リーダーシップ(Team Leadership: TL)」です。これらは、KK2コンピテンシー、社会人基礎力の各コンピテンシーを総合して特別な効果を他の人や組織に与えるという役割を果たします。
KK2でのしごと力コンピテンシーの9項目とKK2以外のコンピテンシーとの若干の比較は後の稿で説明をしますが、今までにスペンサー等のコンピテンシー研究のクラスター(群)の説明を、「コンピテンシー・マネジメントの展開(Competence At Work)」という著述からも紹介してきましたので、この6つのクラスターを構成する20個のコンピテンシー要素それぞれについての内容を紹介して行きます。この項でも、ところどころ、これらの要素とKK2のコンピテンシーとの関係を可能な範囲で説明していきます。
[1] 達成重視(Achievement Orientation: ACH )
「達成とアクション(Achievement and Action)」というクラスターには四つの要素があり、一番目は「達成重視(Achievement Orientation: ACH )」です。このACHは20ある要素の中では、最上位に位置するもので、INT(イニシアティブ)、CSO(顧客重視)、CO(秩序指向)など複数の重要な要素を前提においています。高業績を上げるエキスパートは共通して、物事を目標どおりかそれ以上に達成するという強い意思を保持しています。KK2のコンピテンシーでは「実行力」がありますが、行動を進めるという行為の前提には達成意欲がかかせません。ACHという最重要のコンピテンシーは、すぐれた仕事を達成する、あるいは卓越した基準に挑む姿勢を示しています。ここで言う「基準」とは、個人の過去の業績、客観的な業務目標、競合的目標、個人の挑戦的目標、イノベーションなどです。ACHは、「効率重視」、「基準の遵守」、「改善へのフォーカス」、「起業家的行動」、「リソースの最適活用」と言う表現でも使われ、定められた目標を達成しようという強い動機(モティベーション)から発動されます。あるコンピテンシーが発揮されているかを観察するための指標を、その要素の「行動インディケーター」と言いますが、ACHの行動インディケーターとしては、1)マネジメントにより設定された基準を満たすべく仕事をすすめる 2)自分、他人に対してチャレンジングな目標を設定し、その達成に向けて行動する 3)コスト効果性分析による適正な指標に基づき、意思決定し優先度をつける 4)企業家的リスクを解明した上でリスクに挑む、というようなものがあります。
[2] 秩序、クオリティー(Concern for Order, Quality, and Accuracy: CO)
「達成とアクション(Achievement and Action)」というクラスター(群)の四要素の二番目は「秩序、クオリティー(Concern for Order, Quality, and Accuracy: CO)」です。COは「秩序、行為の質(クオリティー)、正確性などへの関心」という意味から成り立っており、AT(分析思考)を前提としています。仕事の実行や達成という行為を正確に秩序ただしく為すという配慮も種々のエキスパートには求められますが、技術職、専門職などの実業において特に必要な場合もあります。KK2のコンピテンシーでの「実行力」にはこのCOと言う要素が含まれています。COには、取り巻く環境における不確実性を減らす基本的な動因が関わっており、モニタリング、曖昧さの除去、不確実性減少への欲求や、わき道にそれないというような行動が含まれます。COの行動インディケーター(指標)としては、1)仕事や情報をモニターし、チェックする 2)役割と機能について明確な定義を求める 3)情報システムを作り、維持する、といったものがあります。SEや経理などの専門的職種では、このCOというコンピテンシーがかなり高く求められます。
[3] イニシアティブ(Initiative: INT)
「達成とアクション(Achievement and Action)」というクラスター(群)の四要素の三番目は「イニシアティブ(Initiative: INT)」です。INTはIU(対人関係理解)、AT(分析思考)、CT(概念思考)を前提とする、中位レベルの重要コンピテンシー要素であり、KK2の「実行力」コンピテンシーの中核的要素と言えます。INTは、CSO(顧客指向)とともに、最上位コンピテンシーであるACH(達成重視)の前提となるもので、行為のドライバーとなってエキスパートの行動を主導します。自律的モティベーション、自発的努力などで他人も巻き込みながら仕事をすすめる事ができます。また、INTは、行動を起こすことに対する強い指向性で、期待されていること以上の事を実行し、成果を出します。一般職位では、アクションへの強い関心、決断力、戦略的な未来指向、機会をつかむ、先取り的に行動するといった形で、マネジメント職位では、問題回避の現時点での行動、将来での機会創造という形で現れます。行動インディケーター(指標)としては、1)粘り強さ 2)障害や反対に対する耐性 3)機会の発見と取り組み 4)職務要件をはるかに越えた達成、などがあります。
[4] 情報探求(Information Seeking: INFO)
「達成とアクション(Achievement and Action)」というクラスター(群)の四要素の四番目は「情報探求(Information Seeking: INFO)」です。INFOは言葉どおりで、情報に注意を払って、認知、収集する力です。他のコンピテンシー要素のほとんどのものの前提としてこのINTは定義されており、レベルは下位に属しますが、どんなエキスパートにも必要な要素と言って間違えありません。KK2では状況把握力、リスク分析力、原因究明力などという要素がありますが、それらの前提にもこのINTが含まれています。INFOは、生来の好奇心や、物事、人間、課題についてもっと知りたいと願う欲求が動因となっており、状況を額面どおりに受けとるに留まらず、更に多くの情報を得ようとします。また、問題の定義、特定、診断のための視点、顧客/マーケティングに対する感受性、深い掘り下げといった行動も特性として上げられます。行動インディケーター(指標)として、1)掘り下げる質問での正確な情報把握 2)将来役立つかもしれない雑多な情報収集 3)個人的に現場に出向いての活動、などがあります。
[5] 対人関係理解(Interpersonal Understanding: IU)
二つ目のクラスター(群)である「支援と人材サービス(Helping and Human Service)」には二つの要素があり、一番目は「対人関係理解(Interpersonal Understanding: IU)」です。IUはINT(イニシアティブ)、CSO(顧客重視)などの高レベル要素を初め、IMP(インパクト)、Managerial(マネジメント)などのクラスターの構成要素の前提となる重要な要素です。KK2では「コミュニケーション力」「共感力」などと表現されていますが、これらもIU(対人関係理解)が基礎にあります。IUは、に営業担当者などの顧客との接点が多いエキスパートや、上司部下関係などでの管理職でも必須のスキルで、ほかの人たちを理解したいという願望に基づいていて、その人たちの言葉に表されない考え方、感性、懸念を正確に聴き取り、理解する能力です。異文化感受性は、IUの特別なケースと言えます。IUは、「共感性」、「傾聴」、「ほかの人たちに対する感受性」、「ほかの人たちへの感情の理解」、「診断のための理解」といった言葉でも表現されます。KK2のコミュニケーション力には、IUの相手の事を理解する事に加えて、自分の伝えたいことを相手に伝えるという双方向性が含まれています。行動インディケーターとしては、1)ほかの人たちのムードや感情を認識する 2)ほかの人たちの反応を予測し、それに準備するために、傾聴や観察を通じて理解を深める 3)ほかの人たちの態度、興味、ニーズ、考え方を理解する 4)ほかの人たちが長い間に身につけた態度、行動パターン、問題点の根源を理解する、といったようなかなり高度で緻密な対人観察能力を含むと言えます。
[6] 顧客サービス重視(Customer Service Orientation: CSO)
二つ目のクラスター(群)である「支援と人材サービス(Helping and Human Service)」には二つの要素があり、二番目の要素は「顧客サービス重視(Customer Service Orientation: CSO)」です。CSOはINT(イニシアティブ)、EXP(専門スキル)、OA(組織理解)などを前提とする、ACH(達成重視)と並ぶ上位のコンピテンシー要素で、AT(分析思考)、CT(概念思考)などの要素も直接前提としている。CSOは直接顧客に接する営業職に必須ですが、スタッフ部門等、社内他部門との関係が多い部門でのエキスパートにも、CSOは必要とされます。CSOは、ほかの人たちのニーズに応え、支援し、サービスを提供したいという願望です。顧客やクライアントのニーズを発見し、満足させる努力に専念したり、ほかの人たちを助け、支援するために行動を起こすことに力点をおきます。クライアントのニーズにフォーカスする、クライアントとパートナーを組む、エンドユーザーを重視する、患者の満足への関心を持つといったものもCSOの行動です。CSOはその動機の強さや、示される努力、イニシアティブの大きさによってその程度が測られます。行動インディケーター(指標)として、 1)クライアントの、単に言葉で表現されたレベルを超えた根本的なニーズをつかみ、製品やサービス開発へ反映し、提供する 2)顧客サービスでの諸問題を責任を持って迅速に、前向きに対応する 3)クライアントの問題と機会、実行について自分自身の意見を持ち、長期的視野を持って、信頼される助言者として行動する、といった行動があげられます。
[7] インパクトと影響力(Impact and Influence: IMP)
三つ目のクラスター(群)の「インパクトと影響力(The Impact and Influence Cluster)」には三つの要素があり、初めの要素は「インパクトと影響力(Impact and Influence: IMP)」です。IMPはこのクラスターの他の二要素である、OA(組織理解)とINT(イニシアティブ)を前提にしていて、RB(関係構築)とは相互に前提とし合う関係にあり、このクラスターの中核の要素となっています。また、IMPはTW(チームワーク)、TL(リーダーシップ)というマネジメント群の要素の前提となっています。IMPは相手に強い影響を与えるという行為の要素で、営業、管理職などの対人関係力にも大きな要素となっています。IMPは、その人の考え方を指示してくれるように、ほかの人たちを説得し、信服させ、印象付ける意思であり、彼らに特定のインパクトを与える願望です。そして、ほかの人たちがとって欲しいと、その人が願うアクションのコースや、印象づけたい具体的なポイントを備えています。「戦略的インフルエンス」、「インプレッションマネジメント」、「ショーマンシップ」、「的を絞った説得」という表現もされます。KK2の「実行力」の中にはこのIMPが含まれています。行動インディケーターとしては、1)その人の行動、あるいは人々がその人に対して抱く印象からの効果を読み取る 2)データ、事実、数字、視聴覚、デモを多用する 3)政治的な連帯、アイデアに対する舞台裏でのサポート体制を築く 4)目指す効果を得るために、意図的に情報を使う 5)「グループプロセススキル」を活用するなどがあります。KK2の「実行力」にはこのIMPが含まれています。
[8] 組織の理解(Organization Awareness: OA)
三つ目のクラスター(群)の「インパクトと影響力(The Impact and Influence Cluster)」には三つの要素があり、二番目の要素は「組織の理解(Organization Awareness: OA)」です。OAはこのクラスターの他の二要素であるRB(関係構築)を前提として、IMP(インパクト)の前提となっています。又、INT(イニシアティブ)とIU(対人関係理解)を前提としており、自分の属する組織、あるいは顧客などの組織がどのようになっていて、課題が何処にあるかなどをよく捉える事ができるというスキルです。KK2のコンピテンシーの「状況把握力」の中にはこの要素が含まれています。OAは、組織のパワー関係を理解する能力で、真の決定者とそれに影響を及ぼす者を見分けます。OAは又「組織を操る」、「人をまとめる」、「顧客組織がわかる」、「指示系統がわかっている」、「政治的目先がきく」などとも言われます。行動インディケーターとして、1)組織内のインフォーマルな構造を理解する 2)組織に内在する不文律のような制約を認識する 3)組織に影響を及ぼしている、表にでない問題、機会、政治的な動きを理解し、対応する。KK2では「原因究明力」、「リスク分析力」などの要素にOAは含まれていると考えています。
[9] 関係の構築(Relationship Building: RB)
三つ目のクラスター(群)の「インパクトと影響力(The Impact and Influence Cluster)」には三つの要素があり、三番目の要素は「関係の構築(Relationship Building: RB)」です。RBはOA(組織の理解)の前提となり、IMP(インパクト)と相互に前提関係にあります。又INT(イニシアティブ)を前提としています。RBは相手に影響を与えながら、自他の相互理解を元に、関係を築きあげるという重層的なコンピテンシーを構成しています。KK2コンピテンシーでは「共感力」の中にこのRBの要素が含まれています。RBは、人々との良好な関係を構築と維持をする力ですが、その人々は、現在だけでなく将来にわたる職務に関する目標達成に貢献する人々です。RBは「ネットワーキング力」、「リソースの活用」、「コンタクト先開拓」、「個人的コンタクト」、「顧客関係への関心」、「ラポール(相互信頼)を築くスキル」などとも言われます。行動インディケーターとして、1)ラポールを築く事に努力しているか、苦も無くラポールを築く 2)相互理解構築の為に、個人的情報をシェアする 3)多くの人々とネットワークを築くなどです。KK2の「共感力」、「コミュニケーション力」はこの要素が基礎として含まれています。
[11] 指揮命令-自己表現力と地位に伴うパワーの活用(Directiveness - Assertiveness and Use of Positional Power: DIR)
四つ目のクラスター(群)「マネジメント・コンピテンシー(Managerial)」の四つの要素のうちの二番目の要素は「指揮命令-自己表現力と地位に伴うパワーの活用(Directiveness - Assertiveness and Use of Positional Power: DIR)」です。このDIRはINT(イニシアティブ)とCO(秩序指向)を前提としていて、最上位の要素として独立しています。リーダー、管理者などが自分の役割、地位の力を最大限活かして、自分の組織、相手の組織にたいしての指導力を的確に表現し、指揮できるスキルの事を指します。DIRは、ある個人がその願望(何をすべきか)に他者が従うことを促す意思が含まれているが、説得し、納得させる行動は「インパクトと影響力」のコンピテンシーとして表現される。DIRを前向きな形で発揮するために、個人やその個人の地位に備わるパワーを効果的、適切に活かします。決断力、パワーの活用、積極的影響力の活用、指揮をとる、クオリティーの基準の遵守にまい進する、クラス内のコントロールと規律と言ったこともDIRの表現です。DIRの行動インディケーターとしては、業績の問題に関して他者(たち)とオープンに、直接的に議論する。一貫した基準を設定し、それを満たすべく指令し、それに従うように確固として宣言する。理不尽な要求には断固NOを言い、且つ他者に対して制限を設けます。又、詳細な指示を与え、効果的にタスクを割り付け、自分自身がさらに優先度の高い職務に専念できるようにします。
[12] チームワークと協調(Teamwork and Cooperation: TW)
四つ目のクラスター(群)「マネジメント・コンピテンシー(Managerial)」の四つの要素のうちの三番目の要素は「チームワークと協調(Teamwork and Cooperation: TW)」です。TWはIMP(インパクト)、OA(組織理解)、IU(対人関係理解)を前提としており、個人、組織両者の相互理解の下に、構成員間の協力を得るために影響力を発揮することを言います。KK2のコンピテンシーでは、「共感力」、「コミュニケーション力」などの人間関係力分野に相当します。TWは孤立的に、あるいは競争的に振舞うのではなく、他者と協同しチームの一員となって他のメンバーと助け合い、チームのいかなる役割(リーダー、メンバー)においても発揮できます。グループマネジメント、グループ機能の促進、対立の解消、グループ文化のマネジメント、他者(たち)のモティベーションケアなどもTWコンピテンシーの表現です。KK2の分類では、自己認識力、感情マネジメント力を基礎にした共感力、コミュニケーション力などのFeel分野にあたります。TWの行動インディケーターとしては、具体的な意思決定やプラン作りを支援するためにアイデアや意見を募ったり、プロセスに関してメンバーに情報提供し、知識を最新に保ちます。又、他者に対し前向きの期待感を表明したり、他者の貢献を公の場で認めたりします。他者が実力を備え、重要であると感じられるように励まし、エンパワーします。KK2のコンピテンシーでは、「共感力」、「コミュニケーション力」などの人間関係力分野に相当します。