『ウルトラマンが泣いている』(円谷 英明 著)

『ウルトラマンが泣いている』  ‐円谷プロの失敗

『ウルトラマンが泣いている』(円谷 英明 著) 

著 者:円谷 英明
出版社:講談社
発 行:2013/06
定 価:777円


【目次】
 1.円谷プロの「不幸」
 2.テレビから「消えた」理由
 3.厚かった「海外進出」の壁
 4.円谷プロ「最大の失敗」
 5.難敵は「玩具優先主義」
 6.円谷商法「破綻の恐怖」
 7.ウルトラマンが泣いている

  • ■"一族追放"までに至る円谷プロの失敗の本質を探る

     1960~70年代の子どもたちを熱狂させ、その後の「特撮ヒーローもの」の礎を築いたテレビ番組「ウルトラマン」は、制作会社「円谷プロ」によって生み出されていた。創業者・円谷英二氏以来三代にわたって円谷一族によって経営されてきた同社だが、現在は円谷家の人間は経営に一切関与していない。本書では、創業者の孫で第6代社長を務めた円谷英明氏が、円谷プロの創業から"一族追放"に至るまでの過程を追い、失敗の本質を探っている。
     「特撮の神様」と呼ばれた円谷英二氏は妥協を許さない完璧主義者だった。ゆえに、ただでさえ経費のかかる特撮の制作費がさらにかさみ、積年の赤字体質を生むことになる。また、同社は英二氏の「去る者は追わず」という方針もあり、人の出入りが激しく、人事も杜撰だった。そのことが後年のウルトラマンシリーズのコンセプトやテイストが一貫性を欠くことにつながり、ファンの離脱を招くまでになった。

  • ■良くも悪くも「子ども」だった円谷一族の経営体質

     子どもたちの胸をときめかせた円谷プロは、良くも悪くも「子ども」だった。第3代社長の円谷皐氏のワンマン経営は、社員の反感を買うとともに、東宝やTBSなどの出資企業、協力会社との関係も悪化させることになる。資金の私的流用などスキャンダルも発覚し、海外事業にも失敗。とくに、わずかな額の資金繰りのためにタイの制作会社にキャラクター使用権を譲り渡すことになり、日本以外での関連商品の販売ができなくなったことは大きな痛手となった。
     ウルトラマンシリーズは制作され続けたものの超低視聴率にあえぎ、2006年の「ウルトラマンメビウス」放送の頃には借金が30億円超まで膨らんでいた。その対策として円谷プロは広告会社TYOの出資を受ける。それまで企業買収を数多く行ってきたTYOは、鮮やかな手口で乗っ取りに成功。経営下手で人事に甘かった円谷一族はなすすべもなく、退陣を余儀なくされることとなったのだ。

  • ◎著者プロフィール

    円谷プロ元社長(第6代)。1959年東京都生まれ。中央大学理工学部卒業後、バンダイを経て、1983年、祖父・円谷英二が創業した「円谷プロダクション」に入社。「円谷エンタープライズ」常務、「円谷コミュニケーションズ」社長、「円谷プロ」専務などを務めた後、2004年「円谷プロ」社長に就任。2005年に退任後「円谷ドリームファクトリー」を創設し、中国で特撮番組の制作を始めるが、2010年に同社を退いた。