『戦略と実行』 (清水 勝彦 著)

『戦略と実行』 ‐組織的コミュニケーションとは何か

『戦略と実行』 (清水 勝彦 著) 

著者:清水 勝彦
出版社:日経BP社
発行:2011/03
定価:1,890円


【目次】
 1.戦略実行の「今」
 2.戦略実行の問題点
 3.組織におけるコミュニケーション
 4.組織の実行力向上に向けて

  • ■戦略を「実行」するためのコミュニケーションが最重要

     企業をはじめとする組織の経営にとって「戦略」が重要であることは、現代では当たり前のこととして認識されている。本書の著者は、この状況を「戦略のコモディティ化(日用品化)」と呼び、どの企業も同じような情報によって似たような戦略を立てるため、戦略だけでは差別化ができなくなっていると指摘する。しかし同じような戦略であっても、ビジネスの世界では勝者と敗者がはっきりと分かれる。それは、組織の構成員が戦略の本質を理解し、確実に「実行」することができるか否かにより業績に差が出るからである。
     戦略重視のアメリカ式経営の考え方により、日本の企業社会では「分析、理論」が重視されるようになった。だが、たとえば「この仕事が好き」といった「気持ち」は分析や理論でははかれない。そうした気持ちも含め、目標、夢や戦略を、トップと現場が共有するための「コミュニケーション」こそ、戦略の「実行」にもっとも重要なものなのである。

  • ■トップ、ミドル、現場の三者が有機的に協力し合う

     顧客や競合を分析しロジカルに組み立てられた戦略であっても、現場の「やる気」がなければ戦略は実行されないのである。トップとしては、戦略・目標に「気持ち」を込めた「夢」を語りかけて社員と共有する。そして共有できた社員"だけ"で「実行」にかかることが大切なのだ。
     実行は「戦略の後工程」ではない。戦略の実行とは、顧客や競合の反応を通じて仮説を検証して間違いを正し、さらに質の高い仮説を立てるという繰り返しである。そのためには、トップ、ミドル、現場の三者が、有機的に協力し合わなければならない。その根底にあるのがコミュニケーションである。つまり、情報や指示の中にある「意味」を共有することだ。
     戦略の実行は「戦略の核となる目的について合意する」「合意できない戦略施策についても100%の力を投入するための"納得"を培う」「実行の過程で新しく発見された情報を戦略に反映させる」といったプロセスを踏むべきなのである。

  • ◎著者プロフィール

    慶應義塾大学大学院経営管理研究科教授。東京大学法学部卒業。ダートマス大学エイモス・タックスクール経営学修士(MBA)、テキサスA&M大学経営学博士(Ph.D.)。8年間の戦略コンサルタント経験の後、研究者の道を歩む。専門分野は、経営戦略立案・実行とそれに伴う意思決定、戦略評価と組織学習。著書に『戦略の原点』『経営意思決定の原点』(いずれも日経BP社)等がある。