『なぜ、それを買わずにはいられないのか』 (マーティン・リンストローム 著)
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■人間は周囲と同じものを欲しがる
私たちは社会的な種族であり、群れ行動をする習性を持っている。なにかを決めるとき、私たちは本能的にほかの人たちの行動を参考にする。心理学者はこの現象を「ピアプレッシャー(仲間圧力)」と名付けた。ピアプレッシャーは人間の原始的欲求に根ざした潜在的なもの、仲間から除外されないために進化してきた本能であり、きわめて強い力を持つ。
メーカーや広告会社は、消費者の想像を超えたやり方でその強い説得力を利用している。たとえば、あるおもちゃメーカーは意図的に製造を控え、在庫を抑えることによって消費者にその商品の需要が高いと思いこませた。品薄感覚によって群集心理が刺激され、ついには、3倍や5倍の値段で取引されるようになるほどの過熱気味の現象がつくり出されたという。
本書では、マーケティングや広告の世界において何が行われているのか、その実態を洗い出している。 -
■あなたのデータはいたるところで盗まれる
データマイニングというビジネスが、急速に成長を遂げている。消費者の行動を追跡して分析したのち、そのデータをもとに消費者を説得または操作して商品を買わせるのだ。データマイニングの手法を使って、企業はあなたの買い物の習慣を把握するのみならず、国籍、性別、住所、教育程度、平均収入、家族構成、ペットの名前、好きな映画などなどを把握する。
私たちは、いまや、プライバシー消滅後の社会で暮らしている、と著者は語っている。現在地をツイートし、フェイスブックのプロファイルを更新し、オンラインでクレジットカードを使って買い物をするたびに個人情報が世の中にばらまかれている。そしてマーケターは、その情報をすべて記録し、蓄え、集積し、分析し、品物を使わせるために使う。私たちは情報をオンラインに載せることは避けられず、データマイナーのものほしげな視線を逃れることはますます難しくなるであろう。 -
◎著者プロフィール
1970年、デンマーク生まれ。若くして広告会社を設立するなどキャリアを重ね、ブランディング・マーケティングの「グル」と呼ばれるまでになる。消費者の代弁者として、マクドナルド、P&G、マイクロソフトのような大会社のトップにアドバイスし、年間100万人に講演を行っている。2009年に『タイム』誌の「世界でもっとも影響力がある100人」に選ばれ、前著『買い物する脳』(早川書房)は『ニューヨーク・タイムズ』などでベストセラーリスト入り、『USAトゥディ』の「今年の1冊」に。