『新しい市場のつくりかた』

『新しい市場のつくりかた』

『新しい市場のつくりかた』 

著 者:三宅 秀道
出版社:東洋経済新報社
発 行:2012/10
定 価:2,100円


【目次】
 1.さよなら技術神話
 2.新しい「文化」を開発する
 3.「問題」そのものを開発する
 4.独自技術なんていらない
 5.組織という病
 6.「現場の本社主義」宣言
 7.価値のエコシステムをデザインせよ
 8.ステータスと仲間をつくれ
 9.ビジネスの外側に目を向けよ
 10.地域コミュニティにおける商品開発

  • ■技術偏重の考え方では新しい市場はつくれない

     「ものづくり大国」でかつて世界を席巻した日本の製造業が衰退してきている。本書では、その原因について「新しい市場」がつくれなくなってきたからと指摘する。製造業をはじめとする企業は、「技術ありき」の商品開発やマーケティングに頼りすぎて、新しい暮らし方や価値観、文化を社会に提示することができなくなっている。
     かつて「新しい市場」をつくるのに成功した製品に「ウォシュレット」がある。ウォシュレットに使われている技術は、温水器とポンプがついたシャワー。これは、20世紀初頭にはすでにあった技術である。しかしウォシュレットは日本では1980年代になって開発され、ポピュラーになった。それは、それまでは「トイレで用を足した後にお尻を洗う」という生活習慣や、「お尻を洗いたい」という価値観が存在しなかったから。技術ではなく、そうした「文化」をつくり出したことでウォシュレットは成功したのである。

  • ■問題開発、技術開発、環境開発、認知開発の四つのハードル

     商品が社会に普及するためには「問題開発」「技術開発」「環境開発」「認知開発」の四つのハードルを越えなくてはならない。ウォシュレットのケースでは、「お尻を温水で洗いたいけれど洗えない」という問題をまず設定する。そして、それを解決するための技術を開発。さらに、普及させるための「環境開発」がある。すなわち給電のシステムや水洗トイレが一般家庭に広まっていなくてはならない。認知開発とは、教育や宣伝活動により、新しい価値観や生活習慣を広く普及させることを指す。商品を開発する者がこの四つすべてをクリアする必要はないが、誰かによって必ず越えられていなくてはならないのだ。
     すでにある対象から「正しいもの」を見つけるという態度では問題を開発することはできない。どこにも「正しいもの」が存在しない、いわば「妄想」を、「正しいもの」にしていくメンタリティが、新しい市場を芽吹かせるためには必要なのである。

  • ◎著者プロフィール

    東海大学政治経済学部専任講師。1996年早稲田大学商学部卒業。都市文化研究所、東京都品川区産業振興課などを経て、2007年早稲田大学大学院商学研究科博士課程単位取得退学。東京大学大学院経済学研究科ものづくり経営研究センター特任研究員を経て、2010年より現職。これまでに大小1000社近くの事業組織を取材・研究。現在、企業・自治体・NPOとも共同で製品開発の調査、コンサルティングにも従事している。