『「予測市場」という新戦略』 (ドナルド・トンプソン 著)
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■専門家を上回る精度の高さを誇る「予測市場」
米国の「アイオワ電子市場」、アイルランドの「イントレード」などの「予測市場」が人気を集めている。予測市場とは、証券市場を模した方法で、選挙やスポーツの結果、映画の興行成績などさまざまな未来の出来事の結果を予測する"市場"だ。
予測市場における予測の結果の精度はおおむね高い。多くのケースで、専門家による予測を上回っているという。予測市場では、多数のトレーダーが参加することによって、分散されていた情報が集約される。なかでも優れた情報を有する者は多額の投資をすることによって、市場の価格を動かすことになる。その結果、その優れた情報の示唆する予測と同じ結果が出やすくなるのだ。
「予測市場」の手法は、ビジネスにも取り入れられ始めている。グーグルやマイクロソフト、ボーイングなどの大手企業でも導入されており、結果を「予測」したうえでの意思決定のツールとして有効に活用されている。 -
■「予測市場」での取引によりビジネスの意思決定を行う
米国のITエンジニアリング会社、ライト・ソリューションズは「ミューチュアル・ファン・マーケット」と呼ばれる予測市場を導入している。同社のトップは、経営者が独断で会社の方向性を決めることに反対で、ビジョンをどのように実現するかを判断するのは従業員たちであるという考えを持っていた。そこで、従業員の意見に耳を傾け、優れたアイデアに報酬を与えるために予測市場の仕組みを利用することにしたのだ。
この市場では、従業員なら誰でも、新しい製品やサービス、効率化のアイデアなどを提案でき、その提案は「株式」となる。そしてその株式は上場され、従業員は、会社から配られた仮想通貨を使い、イントラネット上で取引を行う。そしてその結果に応じて報酬が配分されるのだ。ミューチュアル・ファン・マーケットでは、開始から2年間で、50もの革新的な製品、サービス、プロセスのアイデアを生み出したという。 -
◎著者プロフィール
経済学者。トロントにあるヨーク大学シューリック・スクール・オブ・ビジネスのマーケティング名誉教授。ハーバード・ビジネススクールおよびロンドン・スクール・オブ・エコノミクスでも教鞭を執っていた。著書に、現代アートの値付けの謎を解明して世界的な反響を呼んだ$12 Million Stuffed Shark: The Curious Economics of Contemporary Artなど9作品がある。