『情熱教室のふたり』 (ジェイ・マシューズ 著)

『情熱教室のふたり』 ‐学力格差とたたかう学校「KIPP」の物語

『情熱教室のふたり』  (ジェイ・マシューズ 著) 

著 者: ジェイ・マシューズ
出版社: ダイヤモンド社
発 行: 2013/02
定 価: 1,680円


【目次】
 1.はじまり――二人の教師の物語
 2.KIPPを立ち上げる
 3.二つの学校を始める
 4.多くの学校を始める

  • ■学力格差とたたかう二人の教師たち

     低所得層の子どもにいい成績を期待することは、バレリーナにアメリカンフットボールの試合で活躍しろ、と言うようなものだ。アメリカでは多くの人がこのように考えている。そのため、低所得の子どもたちが郊外の高所得層の子どものように優秀な教師の指導や補習授業を受けることはめったになく、励まされることもない。
     この現実に強い衝撃を受けたマイケル・ファインバーグとデヴィッド・レヴィンの二人の教師によって1994年に設立されたのが「ナレッジ・イズ・パワー・プログラム(KIPP)」だ。二人は、生徒の可能性を信じて力を尽くす熱心な教師がいれば、低所得者層の子どもの多くが郊外の富裕層の子どもと同じように高い成果を収められることを証明してみせた。また、自分たちのような若い校長を各地で採用して訓練し、現在では22都市28校のKIPPでの成果により、懐疑論者の誤りを正している。

  • ■奮闘を重ね、やがてKIPP全国展開へ

     自分たちの魅力と知性、意欲があればうまくやれるはずだと自信満々で赴任先に臨んだファインバーグとレヴィンだったが、最初のクラスでの生徒たちの反抗的な態度が二人の想いを粉々にした。10歳の生徒さえ、二人の言うことを聞こうとしないのだ。二人は毎夜議論を重ね、打開策を考え続けた。
     ある日、禁止事項であった家庭訪問を実行し、生徒の母親と話し合う場を持ったところ、生徒の態度に改善が見られた。これを機に、レヴィンは毎日最低一軒の訪問を始めた。自分の生徒を育てている親に会って、どうすればやる気を出させることができるのかヒントを得ようとした。
     1999年にテレビ番組でKIPPの取り組みが紹介されると二人は、番組を見た市長や州知事から「感銘を受けた」、「うちでもKIPPを開校したい」と提案された。こうした打診に心を動かされた二人は「KIPPを全国展開しよう」と決意し、重要な原則「五つの柱」として「高い期待」「選択と努力」「長時間授業」「指導力」「結果重視」を定めたのである。

  • ◎著者プロフィール

    ワシントン・ポスト紙記者。1982年、ロサンゼルス支局長時代にスラム街の高校を取材し、一人の教師の指導によって生徒の成績が飛躍的に伸びていることを知った。以来、貧困地域の教育に強い関心を持つようになり、同紙で教育関係のコラムやブログの執筆を担当している。教育関係の記事の執筆によっていくつかの賞を受賞。邦訳書に『あるアメリカ教師の話――No.1教師エスカランテの場合』(1991年刊、JICC出版局)がある。