『銀座にはなぜ超高層ビルがないのか』 (竹沢 えり子 著)
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■超高層ビル計画を地域のルールで断念させた銀座の人たち
2003年夏、松坂屋と森ビルによる再開発提案は、銀座の人々を驚愕させた。それは銀座通り沿道に、2ブロックにまたがり200メートル近い高さの超高層ビルを建設しようというものだった。だが、当初の驚きはすぐに強い疑問へと変化する。その数年前、銀座の人たちは勉強会などの苦労の末、「銀座通り沿道の建物の最高高さは56メートルにする」という地区計画を定めたばかりだったからだ。いくら「都市再生」が国の方針とはいえ、なぜ自分たちが決めた地域のルール、街の形が乗り越えられてしまうのか。そこで銀座の人たちは翌年「銀座街づくり会議」という組織をつくり、議論を重ねていく。2006年、最終的に中央区が地区計画を改正、「建物の最高高さ56メートル」が再び定められる。これにより冒頭の超高層案は消えることになった。
本書では、銀座の街づくりに関わる動きを銀座街づくり会議・銀座デザイン協議会事務局長などの立場から見てきた著者が、会議設立までの経緯やその後の影響を記すとともに、銀座の人たちの話し合いの様子を克明に描いている。 -
■「銀座らしさ」を追求していくことで独自の街並み空間を創出する
銀座はそもそも、野暮なルールやガイドラインなどつくりたいとは思っていない。ルール化されていない“規範”への信頼がこれまでの銀座の繁栄を支え、新規事業者たちも、銀座に店を出すからには銀座らしい店にと自ら努め、それができない店は自然と消えていった。だから本来、判断基準は「銀座らしいかどうか」だけでいいのではないか。
しかしそのためには、前提となる考え方や規範を理解してもらうことが重要と考え、2008年、「銀座デザインルール」という小冊子を発行。このルールは進化し続けていて、例えば2013年には「音声に対するルール」を明確にし、「通りの反対側まで届くような音量は控えてもらいたい」とした。
こうして銀座の人たちがコミュニティを維持して「らしさ」を追求していくかぎり、銀座はこれからも独自の街並み空間を生み出していくであろう。 -
◎著者プロフィール
銀座街づくり会議・銀座デザイン協議会事務局長。東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。2011年、東京工業大学大学院社会理工学研究科博士課程修了。博士(工学)。博士論文にて日本都市計画学会論文奨励賞を受賞。共著に『銀座 街の物語』(河出書房新社)、『成熟社会における開発・建築規制のあり方』(技報堂出版)などがある。