『深海8000mに挑んだ町工場』 ‐無人探査機「江戸っ子1号」プロジェクト(山岡 淳一郎 著)

『深海8000mに挑んだ町工場』 ‐無人探査機「江戸っ子1号」プロジェクト

『深海8000mに挑んだ町工場』 ‐無人探査機「江戸っ子1号」プロジェクト(山岡 淳一郎 著) 

著 者:山岡 淳一郎
出版社:かんき出版
発 行:2014/09
定 価:1,400円(税別)


【目次】
1.「ガラス球」の懐かしい未来へ
2.試行錯誤
3.奮闘する黒衣たち
4.深海8000メートルの先
5.世界市場に挑め!

  • ■東京下町の町工場の技術を結集して深海へ!

     日本の技術力の衰退が叫ばれるなか、町工場の経営者が中心となって開発した深海探査機「江戸っ子1号」が、世界初の深度8千メートルレベルでの三次元ハイビジョン撮影に成功した。産官学金、四位一体の総合力が深海探査機に具現化されるまでの道のりをルポルタージュしたのが本書である。
     東京・葛飾区にある杉野ゴム化学工業所の杉野行雄はある時、町工場の衰退を防ぐため「町工場の皆で手を組んで深海探査ロボットをつくろう!」と呼びかけたが、誰も本気にしない。しかし2009年、大阪府東大阪市の中小企業が開発に携わった人工衛星「まいど1号」が打ち上げに成功。これに地元の東京東信用金庫が刺激された。東信金が他の町工場にも声を掛け、大阪が空なら東京は海と、「江戸っ子1号」プロジェクトの第一歩が踏み出された。
     そして2010年、杉野たちは海洋研究開発機構から「フリーフォール方式耐圧ガラス球入り深海カメラシステム」を紹介されることになる。

  • ■フリーフォール式の手軽な方法で「地球の素顔」をとらえた!

     それは、ガラス球にカメラなどの機器を封入した機体が錘をつけた状態で海底まで沈んで撮影を行い、その後、錘を切り離して浮力で上昇するという単純な仕組みの探査機だったが、未知の領域へ分け入る大きな可能性も秘めていた。フリーフォールの原理を生かしながら、どのように工夫して深海探査機をつくりあげるか。「撮影は三次元ハイビジョンビデオでやろう。そのためには深海の暗闇でも十分に明るいLED照明が必要だ」など、さまざまなアイデアが出された。その中で、海中でそれぞれ別のガラス球に封入した撮影用3DカメラとLED照明の間を、ゴムによる電波送信でつなぐ構想も生まれ、杉野の奮闘で実現、特許も取得した。
     2013年11月、江戸っ子1号が実験航海で撮影した三次元フルハイビジョンの画像は驚くほど鮮明だった。LED照明にはムラがなく、フォーカスはピタリと合っている。江戸っ子1号のハードウェア、ソフトウェアともに十分に信頼できることが証明されたのだ。

  • ◎著者プロフィール

    1959年愛媛県生まれ。出版関連会社、ライター集団を経てノンフィクション作家となる。「人と時代」「21世紀の公と私」を共通テーマとして、政治、経済、近現代史、医療、建築など分野を超えて旺盛に執筆。時事番組のコメンテーター、講演者としても活躍。東京富士大学客員教授。著書に『気骨 経営者土光敏夫の闘い』(平凡社)、『放射能を背負って南相馬市長・桜井勝延と市民の選択』(朝日新聞出版)ほか多数。