『イギリス人アナリスト 日本の国宝を守る』(デービッド・アトキンソン 著)

『イギリス人アナリスト 日本の国宝を守る』  -雇用400万人、GDP8パーセント成長への提言

『イギリス人アナリスト 日本の国宝を守る』(デービッド・アトキンソン 著) 

著 者:デービッド・アトキンソン
出版社:講談社(講談社+α新書)
発 行:2014/10
定 価:840円(税別)


【目次】
1.外国人が理解できない「ミステリアスジャパニーズ現象」
2.日本の「効率の悪さ」を改善する方法
3.日本の経営者には「サイエンス」が足りない
4.日本は本当に「おもてなし」が得意なのか
5.「文化財保護」で日本はまだまだ成長できる
6.「観光立国」日本が真の経済復活を果たす

  • ■日本経済と文化を深く理解する英国人が「観光立国」の方法論を提言する

     日本で長らく暮らし、文化を理解して馴染んだ「親日家」「知日家」と呼ばれる欧米人は多数いる。その中でも少々“変わり種”なのが本書の著者だ。金融アナリストとして活躍した後、日本の国宝や重要文化財の修復を事業とする会社の経営に携わる。本書では、そんな著者が、データや自身の経験から日本という国を分析し、観光産業を中心とする成長戦略を提言している。
     著者は、日本人は「日本経済」について多くの誤解をしていると指摘する。私たちは、戦後日本の高度経済成長の原動力は、技術力、ことに日本が誇る職人的なものづくりだと思いがちだ。ところが著者の見方では、日本が急激な経済成長を遂げた要因は「爆発的な人口増」だという。冷静に国別GDP推移などの「数字」を見れば、そのことは明白であり、技術の高さとの関連性を見ることはできない。日本人は、自分たちに都合のいい結論を導くために「都合のいい話をくっつける」傾向があるというのだ。

  • ■シンプルアンサーを求めず数字をもとに議論をすれば日本には伸びしろがある

     著者は、日本人に「シンプルアンサー」を好む傾向があるとも言う。手っ取り早い結論を求めたがるのだ。アベノミクスにしても2年やそこらで結論が出るものではない。日本のような経済規模の大きい国の経済を上向きにするにはそれなりの時間がかかるものだという。
     問題解決を面倒がらずに、数字に基づく議論を行っていけば、日本企業にはまだまだ伸びしろがある。そして成長するチャンスは「観光立国」にあると、著者は言う。ただ、その戦略として「おもてなし」を前面に出すことには反対する。外国人の求める「おもてなし」と、日本人がアピールしたいそれは異なるからだ。
     日本の旅館やレストランなどでの「おもてなし」は、「客」より「供給者」の都合が優先されがち。日本人がすべきなのは「おもてなし」を極上のサービスのようにプレゼンすることではなく、実際の行動で、どうすれば外国人観光客が満足してリピートしてもらえるかを考えることなのだ。

  • ◎著者プロフィール

    小西美術工藝社代表取締役社長。元ゴールドマン・サックスアナリスト。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年、イギリス生まれ。オックスフォード大学にて「日本学」専攻。アンダーセン・コンサルティング、ソロモン・ブラザーズを経て、1992年にゴールドマン・サックス入社。07年に退社。09年、国宝・重要文化財の補修を手掛ける小西美術工藝社に入社、取締役に就任。10年に代表取締役会長、11年に同会長兼社長に就任。