『地方消滅の罠』-「増田レポート」と人口減少社会の正体 (山下祐介 著)
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■大きな波紋を呼んだ「増田レポート」の疑問点
2014年5月、日本創成会議で「2040年までに全国の市町村の半数が消滅する可能性がある」という、通称「増田レポート」が発表され、大きな波紋を呼んだ。本書は、その波紋の大きさに強い危惧を感じた社会学者の著者が、その虚妄を暴き、地方を守るために必要な論理と、再生に向けた道筋を示している。
増田レポートの議論の入り口は人口減少問題である。人口減少が地方でこそ加速度的に展開し、このままでは自治体消滅が避けられなくなってしまう。それゆえに早く手を打ってこの問題を解決しようというのが最初の出発点だった。しかし、議論の出口は、経済成長さえすれば、地方消滅問題も解消されるとなっている。国家や経済の成長戦略にはかなり詳しく具体的に述べられているのに対し、人口減少や地方消滅の問題解決への道筋については既存の政策を切り貼りするだけであり、きちんとした対策が見当たらないのだ。 -
■国民自身が参加して地方再生に取り組むことが必要
増田レポートの核心は、国家と経済がしっかりしてさえすれば、地方消滅もかまわない、それでも持続可能な国家や経済はいかにして可能なのかというところにある。
よって、私たちが根底で行わなければならない選択とは、地方消滅という問題にしっかりと向き合って適切に対処していくのか、それとも増田レポートを既成事実として受け止め、国家の存続を最優先していくのかということになりそうだ。
そして「地方消滅はかまわない」という考えとは別の道を選択するのであれば、国民自身が「自立」し、「多様性」を許し、民主主義を尊重し、自ら参加し共同するという覚悟をもって地方再生に取り組むことになる。国や政府任せではなく、一人一人の国民が、自分自身の暮らしや生命、生きがいや矜恃に関わる問題として、いまこの国が直面している困難について真剣に向き合い、取り組んでいくことが必要なのだ。 -
◎著者プロフィール
1969年生まれ。九州大学大学院文学研究科社会学専攻博士課程中退。弘前大学准教授などを経て、現在、首都大学東京准教授。専攻は地域社会学、環境社会学。著書『限界集落の真実』『東北発の震災論』(以上、ちくま新書)、『人間なき復興』『「原発避難」論』(以上、共編著、明石書店)、『リスク・コミュニティ論』(弘文堂)、『白神学(1~3巻)』(編著、ブナの里白神公社)など。『津軽学』(津軽に学ぶ会)の運動にも参加。