『日本企業の社員は、なぜこんなにもモチベーションが低いのか?』(ロッシェル・カップ 著)
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■日本企業は長期的思考の伝統を残しつつ、より柔軟な人事管理を
バブル経済崩壊後、人件費削減のため多くの日本企業が、早期退職制度の導入や非正規雇用を進めた。業績にもとづく賃金制度を導入する企業も増えた。だが、それらは雇用に不安定さと競争を持ち込むばかりで、米国のような流動性ある労働環境の整備は進んでいない。それゆえ、日本企業の社員は職を失うことに怯え、活力を失い、リスクを回避する傾向にある。本書では、国の内外を問わず数多くのコンサルティングを手掛ける著者が、日本企業の人事管理システムの問題点を指摘し、その改善策を提示している。
成功する米国企業は、社員が会社に長く勤めたいと思うような職場環境の整備や、長期計画による社員の能力開発を行っている。それらは本来、伝統的な日本式人事管理において行われてきたものだ。
したがって、日本企業は元からある長期的思考による人事管理の良さを残しながら、より柔軟で、社員の満足度にフォーカスしたシステムの導入をめざすべきだと著者は指摘する。 -
■組織も個人も意識変革が求められている
日本企業ではこれまで、正社員がどんな仕事を担当するかを、個人の意思を聞くことなく、人事部が恣意的に割り当ててきた。だが、企業は、社員を置き換え可能な歯車とみなすべきではない。個々人のニーズや願望を尊重し、それぞれが持つ能力を最大限に活用すべきである。
例えば、キャリアパス制度の導入が有効だ。企業は社員に対し、3年から5年のスパンで到達可能な役割(キャリアパス)を数種類提示する。そして、適切なキャリア開発計画を、企業・社員双方の合意のうえで作成し、それに必要な教育や研修の機会を用意する。
ただし、社員の側も、会社に頼る意識を変えていかなければならないと著者は言う。より大きな成功をつかむためには、時に転職する覚悟も必要だ。たとえ転職のつもりがなくても、進むべき方向は自分自身で認識すべき。そのためには、常に自ら積極的に能力開発を行い、人的ネットワークを構築しておくことが重要となる。 -
◎著者プロフィール
経営コンサルタント。エール大学卒業、シカゴ大学経営大学院修了(MBA取得)。大手金融機関の東京本社勤務を経て、日本の多国籍企業の海外進出や海外企業の日本拠点をサポートしているジャパン・インターカルチュラル・コンサルティング社を設立。同社社長。トヨタ自動車、東レ、DeNAなど多くの日本企業へのコンサルティング活動を行う。『外国人部下と仕事をするためのビジネス英語』など著書多数。