『100の思考実験』(ジュリアン・バジーニ 著)

『100の思考実験』 ‐あなたはどこまで考えられるか

『100の思考実験』(ジュリアン・バジーニ 著) 

著者:ジュリアン・バジーニ
出版社:紀伊國屋書店
発行:2012/03
定価:1,890円


【目次】
 邪悪な魔物/自動政府/好都合な銀行のエラー/仮想浮気サービス/
 わたしを食べてとブタに言われたら/・・・他95テーマ

  • ■問題の本質をはっきり見定めるのに役立つ「思考実験」

     「思考実験」の目的は、実生活を複雑にしているさまざまな要因を取り除き、問題の本質をはっきり見定めることにある。たとえば、動物の肉を食べることの倫理性を考えるとき、目の前に出された肉が畜産場で飼育された動物の肉なのか、野生の状態で捕らえられたものなのか、有機肥料で育ったものか、遺伝子組み換えされたものか等々、さまざまにもつれあった要素や、そのときどきで変わる状況を考慮しなければならない。しかし「思考実験」では、2通りの状況を想定し、ある特定の事柄だけが、その2つに違いをもたらすようにすればいい。この例なら「殺され方が異なると、それだけでどんな違いが出てくるか」を考える。たとえば、「あなたの目の前に2種類のチキンカツがある。ひとつは事故で死んだ鶏の肉、もうひとつは頸を絞めて殺された鶏の肉である。2羽とも死ぬ直前までは全く同じ環境で育てられてきた。さて、あなたはどちらのカツに手を伸ばすだろうか」といった具合である。

  • ■ひとつの命題をとことん考え抜く訓練のためのテキストに

     「アフリカの何千人という難民を救う見返りとして、自分にナイトの称号を授けて欲しいと、ある人物が首相に話を持ちかけた。首相はその"賄賂"を受けるべきだろうか」「暴走する列車の先の線路に、それと気づかない40人の作業員がいる。レバーを切り替えて列車を別の方向に進ませると、そこには5人の作業員がいる。さて、あなたならどうするか?」――本書では、簡単には答えの出ないこうした問題が100登場する。正解を出すことが目的ではなく、思考実験を通して、核心となるひとつの概念や問題に焦点を当てて、本質を浮き彫りにしていくことである。哲学の魅力をわかりやすく伝えることで定評がある著者の代表作だけあって、非常に読みやすく、それでいて哲学的ポイントはしっかりと押えられている。100の問題はそれぞれ独立しているので、どこからでも読める。ひとつの命題をとことん考え抜く訓練のためのテキストとして、繰り返し手にとってみたい一冊である。

  • ◎著者プロフィール

    イギリスの哲学誌"The Philosophers' Magazine"編集長。著者自身、哲学者であるが、一般の人々のためにさまざまなメディアを通して、哲学をわかりやすく解説することで知られている。主な著書に"What's It All About?: Philosophy and the Meaning of Life"ほか、邦訳された共著に『哲学の道具箱』『倫理学の道具箱』(共立出版)、『哲学者は何を考えているのか』(春秋社)がある。