『世界で勝負する仕事術』 (竹内 健 著)
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■半導体の世界的エンジニアが創造の極意を語る
最近では低迷が伝えられるが、かつて半導体は日本のお家芸とまで言われ、その設計・製造においては世界をリードしていた。半導体は世界中で普及しつつあるスマートフォンやタブレットなどのデジタル機器の核となるものであり、日々進歩をし続けるその技術開発は常に厳しいグローバル競争にさらされている。
本書の著者は、かつて東芝においてフラッシュメモリの開発に携わった、次世代メモリの研究で世界的に知られるエンジニアである。東芝では開発チームの一員としてフラッシュメモリ事業を世界シェア40%まで押し上げる技術を確立した。本書では、当時日本の技術者としては珍しくスタンフォード大学でMBAを取得、世界の有名IT企業と渡り合いながら半導体ビジネスを成功に導き、さらに東京大学准教授として研究活動に携わるまでの軌跡を振り返りながら、創造的な仕事である半導体設計の考え方、心構えを説いている。 -
■製品の全体像を俯瞰しながらアイデアを練る
著者は、製品開発において、IT業界全体のトレンドや市場のニーズなどを俯瞰し、視野を広く持つことの重要性を強調する。市場のニーズと言っても、顧客の要求に応えることだけを考えていると、発想が狭まってしまう。そうではなく、例えばメモリのある部分を変えるとそれに連動してCPUやOSの条件も変わるなど、他の部品も含めて製品の全体像を予測しながらアイデアを練るべき。さまざまな技術が合わさることでスマートフォンがどういう進化を遂げるのか、というところまで予測し各社の技術進歩を見定める必要がある。
著者は、世界中を飛び回りマーケティングをすることで、全体を俯瞰する習慣を身に付けることができた。他のメーカーと「そういう製品開発があるならこちらも考えますよ」などと交渉することで踏み込んだ情報交換ができたという。
本書に描かれた著者の実体験からは、変化の激しい現代社会で創造的に前へ進んでいくためのヒントを得ることができる。 -
◎著者プロフィール
1967年生まれ、東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻修士課程修了。工学博士。1993年に(株)東芝に入社し、フラッシュメモリの開発に携わる。2003年にはスタンフォード大学ビジネススクール経営学修士課程を修了(MBA)。帰国後、フラッシュメモリ事業の製品開発のプロジェクトマネジメントや企業間交渉、マーケティングに従事する。2007年に東芝を退社し、現在は東京大学大学院工学系研究科准教授。