『ポスト3・11 変わる学問』(学校法人 河合塾 編著)

『ポスト3・11 変わる学問』‐気鋭大学人からの警鐘

『ポスト3・11 変わる学問』(学校法人 河合塾 編著) 

編著:学校法人 河合塾
出版社:朝日新聞出版
発行:2012/03
定価:1,575円


【目次】
 1.学問の再生のために
 2.自らの手で、自らの社会を
 3.若いから、できること
 4.震災を転機として
 5.地球時代を生きる

  • ■未曾有の大震災を機に「学問」はどう捉え直されたのか

     2011年3月11日は、ほとんどすべての日本人にとって忘れ得ぬ日となった。未曾有の大震災とそれに伴う原発事故による危機的状況において、「学問」は本来の役割を果たせたのか、多くのアカデミズムの研究者たちが自問したはずである。本書はその自問から生まれた。「3・11」を機に、学問はどう捉え直されたのか、どのようにスタンスを変えたのか。34人の大学人たちが、それぞれのフィールドにおいてこのテーマに挑んでいる。
     一橋大学大学院国際企業戦略研究科の楠木建教授は「状況論」と「意志」について論じる。社会科学における状況論とは、世の中の「ここが問題だ」「これからこうなるだろう」という論。政治学や経済学は状況論にとどまりがちだ。それに対し経営学は「こうしよう」という意志の学問だ。3・11以降「東電が悪い」「誰かもっと良くして」といった状況論があふれているが、これから必要なのは「意志」の学問であると主張する。

  • ■震災後の取り組みによって「絆」の重要性を再確認する

     福島大学経済経営学類の小山良太准教授は、3・11以前から取り組んでいた「農工商を結ぶ第六次産業創出」というテーマへの取り組みが、震災・原発事故によってどのように変質したかを論じ、具体的事例として「放射能汚染マップ」作成について紹介する。
     第六次産業とは、農業・工業・商業がつながった産業。すなわち第一次産業の農業が第二次産業や第三次産業に進出または連携することによって1+2+3で「6」次の産業にするという取り組みだ。そのことによって多様な生産者や企業が共存できる。具体的に小山准教授らは、地域産物を利用した商品化や販売を行う会社を立ち上げている。
     しかし原発事故で第六次産業の根幹である農業がダメになった。安全性を確認する有効な汚染マップを国は作っていない。そこで小山准教授は学生や住民とともにマップを作成する。そうした地域での活動は第六次産業に必要な「絆」の重要性を再確認させたのだ。

  • ◎著者プロフィール

    大手大学受験予備校「河合塾」を運営する学校法人。河合塾は代々木ゼミナール、駿台予備学校とともに三大予備校と称せられる。1933年に河合英学塾として設立。その後、専門学校、各種学校、社会人向けの資格講座、出版事業など幅広く展開し「河合塾グループ」を形成。近年、大学入試の情報分析から、大学教育の中身にまで研究・事業対象を広げてきており、大学等へのコンサルティングや一般への発信も積極的に展開している。