『コーポレートコミュニケーション経営』 (柴山 慎一 著)
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■ビジネスモデルだけでなくコミュニケーションモデルが必要
モノや情報があふれ、膨大な数の企業が存在する現代社会では、単にビジネスモデルに従って商品やサービスを顧客に提供して利益を上げるだけでは、個々の企業が差別化をはかり、その存在を社会に認めてもらうのは困難である。企業が「らしさ」を発揮し、ブランドとして認知されるためには、社会と的確にコミュニケーションを取っていく必要がある。たとえば、特定の商品やサービスではなく、企業そのものの姿を伝える「イメージ広告」はコミュニケーションの一形態である。コミュニケーションの中身や手法、仕組み、構造からなる「コミュニケーションモデル」を構築し、それを戦略的に推進する経営スタイルのことを本書では「コーポレートコミュニケーション経営」と定義している。コミュニケーションモデルは、経営者の考える価値観やビジョン、従業員の意識・言動といった企業のもつ経営資源によって形成され、各企業の個性がそのまま生かされるものである。
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■社会との「双方向」の対話をすることでブランドイメージを向上
京都にある村田製作所はBtoB取引を主とする総合電子部品メーカーだが、1980年代後半には入社希望者を集めるのに苦労していた。そこで「ムラタセイサク君(R)」と名付けられた人型のロボットをコーポレートコミュニケーション用に開発、「技術志向」を前面に出すことで会社のブランドイメージ向上に成功した。それにより同社は採用面だけでなく、従業員のモチベーションや顧客からの反響等、多くのものを得ることができた。
個人間のコミュニケーションが「双方向」であるように、コーポレートコミュニケーションでは、情報の発信だけでなく受信も重要になる。本書では発信を「広報」、受信を「広聴」と呼ぶ。村田製作所では「社会的認知度が低く、入社希望者が集まらない」という事実を「広聴」し、それへの対処策を「広報」した。双方向の「社会との対話」が成立してはじめて効果的なコミュニケーションモデルを構築することができるのである。 -
◎著者プロフィール
株式会社野村総合研究所総務部長。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了(MBA)後、日本電気株式会社を経て1990年株式会社野村総合研究所入社。コンサルティング第一事業本部長、コンサルティングセクター事業推進本部長、広報部長などを経て2009年より現職。主な著書に『経営ブレーンのマネジメント手法』(共著、アスキー出版)、『未来ビジネスの新展開』(共著、東洋経済新報社)など多数。