『カレーの経営学』(井上 岳久 著)
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■国民食である「カレー」を題材に経営学のエッセンスを解説
日本人の国民食の一つともいわれる「カレー」。本書では、幅広い層に親しまれている「カレー」を題材に、経営学のエッセンスを解説している。とくにカレー業界のリーディングカンパニーであるハウス食品を中心に取り上げ、その創業理念から、商品開発・マーケティング戦略、財務会計、人事等について詳細に分析。江崎グリコ、ヱスビー等の競合社の戦略との比較から全体の市場の動向についても論じている。
小売店に並ぶカレー商品は「ルウ」と「レトルト」に分けられる。ルウは家庭で作るカレーの材料になるもの。家庭のカレーは定番化することが多いため、ルウに関しては変化の少ない少品種で勝負するメーカーが多い。それに対し個食が中心となるレトルトには、多くの種類を用意し、短期間で新しい商品を挑戦的に投入していく戦略が有効だ。カレーに限らず、商品特性を考えたうえで開発や販売戦略を立てることはきわめて重要だ。 -
■バーモントカレーはなぜシェア3割をキープしているのか
国内でもっとも売れているカレールウは、ハウス食品の「バーモントカレー」である。1963年に発売、最盛期には1ブランドで市場の4割強を占め、現在でも約3割のシェアをキープしている。なぜバーモントカレーはそれほどまでのヒット商品になったのか。
人生の初期、すなわち子どもの頃に家庭の食卓に並んだカレーのことを「ファーストカレー」というが、その味は、その後の生涯におけるカレーの嗜好の基礎となることが多いという。バーモントカレーは、りんごとはちみつを用いるなど、マイルドな辛さで子どもでも食べられ、ファミリーの食卓にのぼりやすいように工夫された商品である。幼少時代からの食習慣を形成し、その後もハウス食品のカレーを食べ続け、さらには自らが親になったときに再び「家庭のカレー」としてバーモントカレーを食卓に出す、というようなストーリーを想定した"囲い込み"戦略がバーモントカレーの勝因なのだ。 -
◎著者プロフィール
カレー総合研究所代表。1968年生まれで慶應義塾大学経済学部卒業。片岡物産勤務、横濱カレーミュージアム館長兼プロデューサーを経て2007年にカレー総合研究所を設立する。以来カレー専門のビジネスコンサルタント兼プロデューサーとして活躍。2000種類を超えるレトルトカレーを収集、試食を重ね、大手食品会社やコンビニチェーンのカレー関連商品を含む1000点以上の企画及び監修に携わっている。カレーに関する著書も多数。