『ワイドレンズ』(ロン・アドナー 著)
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■イノベーションのエコシステム全体を俯瞰する
イノベーション論の多くは、自社内のみにおける、資源や強みの発見、アイディア創出、競合を踏まえたビジョンや戦略などについて知見を提供し、サジェスチョンを行っている。しかし、現実のイノベーションの過程ではそれだけでは不十分、と本書は指摘する。関連するイノベーション(自動車生産における部品や製造プロセスなど)を起こす他企業、サプライヤーや卸売、小売などのパートナー企業を含めた「エコシステム」全体をマネージする必要がある。イノベーターは、これまで死角になりがちだった他企業まで視界を広げた「ワイドレンズ」のフレームワークで全体を俯瞰した戦略を立てるべきなのだ。
ワイドレンズによるイノベーションでは「実行リスク」「コーイノベーション・リスク」「アダプションチェーン・リスク」という三つのリスクを踏まえなければならない。このうち実行リスクについては、これまで論じられてきたツールで十分である。 -
■コーイノベーション・リスクとアダプションチェーン・リスク
コーイノベーション・リスクとは、自社のイノベーションの商業的成功が、他社のイノベーションの商業化に依存するリスク。例えば新しい電気自動車を市場に投入する場合に、新しい優れたバッテリーが必要なケースなどである。このリスクの存在を正しく認識していれば、それを緩和するために、市場参入のタイミングとポジショニング、製品・サービスのデザインなどについて、パートナーの動向を視野に入れながら検討することができる。
アダプションチェーン・リスクは、自社とエンドユーザーの間にいる卸売業者、小売業者、販売員たちの連なり(アダプションチェーン)のどこかが切れてしまうリスクである。例えば小売業者が新提案商品を扱うことに反対すればイノベーションは成立しない。リスク回避のために、チェーンを形成するすべてのパートナーにイノベーションの価値を理解してもらうこと、事前に問題の起こりそうな業者を避けるなどの対策を考える必要があるのだ。 -
◎著者プロフィール
ダートマス大学エイモス・タックビジネススクール教授。1993年クーパーユニオン大学工学部卒業。1998年ペンシルベニア大学ウォートンスクールにてPh.D.取得。INSEAD(欧州経営大学院)准教授などを経て、2008年より現職。MBA学生から圧倒的な支持を受け、INSEAD(5回)、タック(1回)のベストティーチャー賞を受賞。専門はイノベーションの成功と失敗の原因の研究、多角化、および経営戦略。企業でのコンサルティング、講演多数。