『有機ELに賭けろ!』 (城戸 淳二 著)
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■日本の技術は韓国に抜かれてしまったのか?
2012年1月10日、世界最大の家電見本市であるコンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)がラスベガスで開幕し、そこで世界の耳目を集める新型テレビが発表され、日本企業に激震が走った。サムスン電子とLGエレクトロニクスによって「55インチの有機ELテレビ」が展示されたのである。大型の有機ELディスプレイの初めての登場に大歓声が上がった。有機ELテレビは次世代テレビの本命と目されている。極薄のデザインと、「これ以上の画質は必要ないのではないか」というほどの美しい画面に、来場者たちは度肝を抜かれたのである。
有機ELの技術というのは、実は日本で生み出されたオリジナル技術である。しかし、いまやその事業化の点で韓国に先を越されてしまった。日本が再び有機ELでトップに立つことはできるのか。自ら有機EL素子の開発に携わり、この業界を知り尽くしている著者が、日本再生のための「大胆な」そして「最後の処方箋」を提出している。 -
■有機ELに勝機有り
サムスンがCESで発表した有機ELディスプレイは、薄いとはいえ従来のプラズマテレビと同様の「据置形」である。しかし有機ELの本質は、フレキシブルな巻取式のフィルム状にできるところにある。極薄・超軽量で、いずれは壁紙のように壁や天井に貼り、一面をスクリーンにすることも可能になる。つまりこれまでのテレビの概念を大きく変えるものなのだ。これを事業化すれば、ディスプレイ市場は間違いなく巨大な市場に発展するだろう。しかも極薄でフィルム状の有機ELディスプレイはすでに試作されている。いまは壁紙大のディスプレイをつくる機械装置がないだけのことである。だから問題は技術ではなく、経営判断にあるのだが、残念ながら、現在の日本企業は明らかに、「有機ELに賭ける勇気・やる気」に欠けているように見える。2013年時点で「フレキシブル有機EL」の技術を持っているのは韓国のサムスンではなく、日本なのだ。「フレキシブル有機EL」の最先端を行けるのは「日本」が最有力なのである。
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◎著者プロフィール
山形大学卓越研究教授。1959年、大阪府東大阪市生まれ。1984年、早稲田大学理工学部応用化学科卒業。1989年、ニューヨークポリテクニック大学大学院博士課程修了(Ph.D.)、同年山形大学工学部助手。2002年、同大学教授。2010年より現職。この間、2002年~2006年までNEDO「高効率有機デバイスの開発」プロジェクトの研究総括として60インチ有機ELディスプレイの研究開発に取り組む。高分子学会賞、米国情報ディスプレイ学会フェロー賞など多数の賞を受けている。