『生きるためにつながる』 (石鍋 仁美 著)
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■新世代の若者たちを理解するためのキーワード、「つながり」と「ソーシャル」
日本が冴えないのは、今の若者に元気がないからだと憂える年長者は多い。例えば「日本人が内向きなのは、若者の留学熱が減ったせいだ」「入社した若者がすぐ辞めるから、企業経営がうまくいかない」など。しかし、年長者の視界の外で、自分たちの新しいやり方で、新世代の若者たちは着々と活躍の場を広げつつある。
その動きには二つのキーワードがある。一つは「つながり」。縦方向の命令と服従ではなく、ネットを武器に組織や地域を越え、横にどんどんつながり、自らの手で人生を切り拓いている。そして、もう一つが「ソーシャル」で、社交的・社会的を意味する言葉だ。新しい発想のビジネスで社会問題を解決しつつ、自分たちの組織も伸ばす。この発想については「ソーシャルイノベーション」の名で既存企業も取り入れ始めている。本書は、20年にわたって消費・流行トレンドを取材してきた日経新聞記者の著者が、若者たちがどんな活動をし、既存の企業やまちづくりにどんな影響を与え始めているのかを実際に訪ねてルポしたものである。 -
■ソーシャル消費、エシカル消費と呼ばれる流れ
2008年に若手金融マンが創業した「鎌倉投信」の本社は、神奈川県鎌倉市にある築80年の古民家。ブロガーが選ぶ優良投信ランキングでは、大手を抑え2位に選ばれた。投資先は、ニートを積極的に採用する会社、女性の就労環境改善に力を入れる会社、森林事業で地域を活性化する会社など、「これからの社会に必要とされる、いい会社」が基準である。なぜなら、日本は高齢化や環境、エネルギーをはじめとする“課題先進国”であり、「解決に取り組む会社は長期的に必ず成長する」からだ。
同社のように社会性を前面に打ち出した企業やブランドが支持を広げつつある。その背景にあるのが、ソーシャル(社会的)消費やエシカル(倫理的)消費と呼ばれる流れ。エコロジー、リサイクル、フェアトレード、自然派化粧品、寄付つき商品、再生可能エネルギーなど、バラバラに見える世の中の消費行動が、「ソーシャル」「エシカル」という言葉で括られることで一つの輪郭が浮かび上がろうとしている。そしてその最前線で活躍しているのが、新世代の若者たちなのである。 -
◎著者プロフィール
日本経済新聞社編集委員兼論説委員。1987年日本経済新聞社入社。入社以来20年にわたって消費・流行トレンドを取材している。著書に『トレンド記者が教える消費を読むツボ62』『ジェネレーションY』(共著)など。