『里山資本主義』 ‐日本経済は「安心の原理」で動く
-
■「里山資本主義」が実現する原価0円からの経済再生
「里山資本主義」とは、「マネー資本主義」と対極をなす、「かつて人間が手を入れてきた休眠資産を再利用することで、原価0円からの経済再生、コミュニティ復活を果たす現象」である。エネルギーや資源をどんどん消費し、それを遙かに上回る収益をあげれば、利益は増えていく。「それが豊かさだ」という100年余り前にアメリカで生まれた常識が日本などの先進国に広がり、さらに発展途上国にも及んで、現在のグローバル経済の体制ができあがった。世界中が同じ常識で、同じ豊かさを追求するようになった瞬間、先進国が息切れを起こし始めたのが、今の経済状況だと本書の著者らは言う。
そんな状況に襲いかかったのが東日本大震災だった。それは、いざとなったらマネーも、遠くで大量に作られるエネルギーも頼りにできないことを都会で思い知る機会となった。そうした状況を救うモデルとして本書が提示するのが「里山資本主義」であり、その先端事例として中国山地の岡山県真庭市や瀬戸内海の周防大島、原発禁止を憲法に明記したオーストリアなどの取り組みが紹介されている。 -
■中国山地の自治体と企業が実践する最先端の事例
「里山資本主義」を実践している最先端の企業と自治体が、中国山地の山あいにある。岡山県真庭市の建材メーカー・銘建工業は、製材の過程で出る木くずを「木質バイオマス発電」に活用し、年間1億円の電気料金を浮かせた上に、余剰分の売電で5000万円の収入を得ている。さらには木くずを産業廃棄物として処理するのにかかる2億4000万円も節約できるので、合計で年間4億円もの得になるという。
また、真庭市には「バイオマス政策課」があり、公共施設に次々とペレットボイラーを導入。重油価格に影響されないメリットがあることから、ハウス栽培にペレットボイラーを導入する農家も増え、同市は現在、消費するエネルギーの11%を里山の木でまかなっている。2013年には「真庭バイオマス発電株式会社」が設立され、稼働後は市の全世帯の半分の電力を供給でき、より多くの雇用や所得が地域で回り始めることが期待できるという。忘れ去られた里山の麓から、マネー資本主義の歪みを補う新たな経済システムが生まれようとしているのである。 -
◎著者プロフィール
藻谷浩介:株式会社日本総合研究所調査部主席研究員。株式会社日本政策投資銀行特任顧問。著書『デフレの正体』は50万部のベストセラーとなり、生産年齢人口という言葉を定着させ、社会に人口動態の影響を周知させた。他に『実測! ニッポンの地域力』(日本経済新聞出版社)。
NHK広島取材班(日本放送協会広島放送局):2011年夏、中国山地で広がる革命的行動に衝撃を受けて取材を開始。藻谷氏とタッグを組んで「里山資本主義」という言葉を作り、1年半にわたって取材・制作を展開した。