『レッドブルはなぜ世界で52億本も売れるのか』(ヴォルフガング・ヒュアヴェーガー 著/楠木 建 解説/長谷川 圭 訳)
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■知られざる世界一のブランド「レッドブル」の秘密に迫る
「レッドブル」といえば、最近、日本のコンビニでもよく見かけるようになったエナジードリンクだが、販売元のレッドブル社はF1やサッカーチームのオーナーとして、また様々なエクストリームスポーツの主催者としてもその名が広く知られるようになった。創業からわずか25年で世界165ヵ国に展開し、年間52億本、エナジードリンクとしてはシェア、売上ともに世界一のブランドへと成長したのである。
しかし、これだけメジャーになっても、レッドブル社の経営の実態はあまり知られていない。上場もしていないし、創業者ディートリッヒ・マテシッツも、マスメディアへの露出を嫌い、基本的に取材はNG。オーストリアの会社であることさえあまり知られていない。そうした状況の中で本書は、レッドブルの元社員を主な取材ソースに、レッドブルの成り立ちや世界的ブランドへと成長していく過程、マーケティングとブランディングの考え方等を紹介しつつ、レッドブル成長の要因を探ったものである。 -
■スポーツのスポンサーではなく、スポーツの一部になる
「レッドブル」の商品コンセプトは、“レッドブル、翼を授ける”というキャッチコピーによく表されている。マテシッツにとって、スポーツは初めから彼のブランドと商品を人々の意識に植え付けるための重要なツールであった。スポーツほど、エナジードリンクがその効果を証明できる場所はない。何しろ、レッドブルは翼を授け、心と体を羽ばたかせるのである。彼は、量を計ることも金銭で買うこともできない抽象的な要素こそが企業の成功の基礎となる、と考えている。
スポーツ選手にトレードマークを押しつけ、それがテレビに映っていた時間を集計するようなことだけは絶対にしたくない、とマテシッツは主張する。「あるスタジアムの広告スペースをすべてプレゼントすると言われても、欲しいと思いません。私は『量がすべて』といった考えは持っていません。スポーツの一部になることが、私たちの哲学です」。スポーツの一部になること、これがレッドブルの強みなのだ。 -
◎著者、解説者プロフィール
ヴォルフガング・ヒュアヴェーガー:1971年生まれ。政治学、ジャーナリズム、ロシア語専攻。オーストリアのザルツブルグ在住。執筆活動のほか、ザルツブルグとウィーンの新聞の編集者として活躍。ポルシェ、アウディ、フォルクスワーゲンで活躍した経営者フェルディナント・ピエヒをはじめとする経済人や政治家の評伝を出版している。
楠木建(解説):一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。1992年一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。一橋大学商学部助教授および同イノベーション研究センター助教授などを経て、2010年より現職。専攻は競争戦略とイノベーション。