『ミツバチの会議』 ‐なぜ常に最良の意思決定ができるのか
『ミツバチの会議』
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■ミツバチが新しい巣を決定する際の「議論」が人間の意思決定にも応用できる
組織の中で話し合いによって意思決定をし、常に最良の選択をしていくことは難しい。しかし、実はその難しいことを、ミツバチがやってのけている。本書は、ミツバチが新しい巣を選ぶときに互いに討議しながら決めている習性を紹介し、人間社会における合議制での意思決定プロセスへ応用できないか探っている。
ミツバチは女王バチを中心に数万匹の働きバチが巣を作り生活を営む。晩春から初夏にかけてミツバチは新女王を決め、旧女王と1万匹ほどの集団は、新しい巣を求めて巣から出ていく(分蜂)。この集団はまず、もと居た巣の近くに野営地(蜂球)をつくり、そこから数百匹の家探しバチを周囲70平方キロメートルほどの範囲まで派遣し、新しい巣の候補地を探す。十数カ所の候補地が見つかると、いくつかの理想の家の基準に照らして、もっとも新居にふさわしい場所を民主的な議論によって決める。選択プロセスが完了すると、ミツバチたちは一団となってまっすぐ新居に向かう。 -
■できるだけ多くの選択肢を用意し、各自が自分の意見を形成してから賛同する
ミツバチは互いに「尻振りダンス」でコミュニケーションする。それぞれの家探しバチは、候補地を見つけると野営地に帰り、尻振りダンスでその情報を伝える。他の働きバチはその情報を前向きに評価すると、候補地に召集される。そこで実際に見て「良いな」と思ったハチは、再び野営地に戻り、尻振りダンスでさらに他のハチに伝える。こうした過程を経て、追従者が一定数以上に増えた人気の候補地が、新居として決定されるのだ。
このミツバチの習性から人間が学ぶことは多い。まず、たくさんのアイディアを公平に俎上に乗せ、できるかぎり多くの情報をもとに率直な議論を行うこと。また、それぞれのメンバーがある一人の意見に盲従することなく、実際に確認できるところは確かめ、自身の意見を形成してからその意見に賛同するかを判断する点だ。ミツバチは自分が本当に価値があると判断しないかぎり、尻振りダンスで他のハチに情報を伝えることはしないのである。 -
◎著者プロフィール
コーネル大学生物学教授。1952年生まれ。米国ダートマス大学卒業後、ハーバード大学でミツバチの研究により博士号を取得。著書に『ミツバチの知恵』(青土社、1998年)などがある。